2010年に庵原保文氏(元ヤフー社員)と、佐野将史氏(ヤフーに勤務)は、スノーボードのHow toを紹介する個人アプリを共同開発した。当時はスマートフォンの普及過程にあり、有象無象の個人アプリが台頭した時期にあたる。アプリ開発に従事する中で、庵原保文氏は汎用的なアプリに可能性を見出す。
ただし、庵原保文氏は早急な起業は避けて、2年間は副業として会社経営に従事した。2010年にヤフーを退職した後は、シティーバンクに転職してwebマーケティングの業務に従事しており、副業として汎用アプリの開発を継続した。
副業としての個人創業から、会社としての起業に至るまで2年かかった理由は、アプリのプラットフォームは前例がないシステムであり、技術的な試行錯誤も必要であった背景もある。
このため、ヤプリの事業は順風満帆とは言い難かった。当初は、中小企業や個人をターゲットにしていたが、当時はスマホの普及過程であり、ユーザーの獲得に苦戦する。このため、継続的な収益を計上する道筋は厳しく、会社設立から最初の2年は苦戦続きであったという。
創業当初の資金繰りは、庵原保文が身銭を切ったらしい。
完成したアプリを見たとき、“ネットとフィジカルが融合する新しい時代がくる”と直感しました。スマホによる革命を、アプリが牽引すると確信したんです。のちに一世を風靡した、AR(拡張現実)を使った『ポケモンGO』やGPSを使った『Uber』は、アプリが起こした革命の最たるものだと思います
ヤフーが運営するベンチャーキャピタル「YJキャピタル」から投資を受けた。また、ヤフーの小澤隆生氏が社外取締役に就任。創業者がヤフー出身であり、YJキャピタルとの縁があったためである
ヤフー出身のエンジニアで庵原保文氏の知人であった鈴木氏(@shinisuz)が1ヶ月でAndroid向けのアプリを開発。その後、鈴木氏はスペースマーケットの共同創業を選択し、同社ではCTOとして活躍
2013年にファストメディア株式会社を資本金500万円で設立した。本社所在地は東京都港区南青山1-2-6 ラティス青山5F。創業時の経営メンバーは3名(庵原保文、佐野将史、黒田真澄)で、いずれもヤフーの出身者であった。
リリース当初は月額19,800円〜。主な機能はクーポンの発行、プッシュ通知。最初の企業顧客はスノーボードブランドBurtonで、キャンペーン用アプリとしてヤプリが採用された。
Yappliはサービス開始から大企業を中心に導入が進み、順調な立ち上がりとなった。この時点での導入企業は、ヤフー、新生銀行、日本ロレアル、TBS、ユニバーサルミュージックなどで、広い業種をカバーした
月額課金ユーザーに特定のコンテンツを解放する機能をリリース。初めて採用したのはTBSのアプリ「TBS韓流エンタメ」で、会員向け動画・写真などのコンテンツを有料で提供。決済はAppleまたはGoogleのアプリ内課金を採用
出資者はグロービス・キャピタル・パートナーズ、Salesforce Ventures、YJキャピタル、川田尚吾氏(DeNA共同創業者)
2015年秋以降、アパレルの公式アプリに「Yappli」が相次いで採用。10月にはmoussy、11月にはTHE NORTH FACE JAPAN、翌2016年3月にはRight-on、同5月にはゴールドウィンが、それぞれ公式アプリにYappliを導入。これらは、ショップのイベント情報の掲載や、プッシュ通知による周知、ECサイトへの誘導を目的としたアプリであった
東京都港区 赤坂2丁目14−5 DAIWA赤坂ビル4F
ポイント連携機能をリリース。送客・販促ツールとしてのYappliの位置付けを鮮明にした
千葉銀行がYappliでアプリを開発。店舗ATMの設置場所の検索や、ネットバンキングページへの誘導を主とするアプリをリリースした。関西まで1ヶ月という短期間を実現。以後、千葉銀行との実績をもとに、ヤプリとしてはアパレルに次ぐ「金融」へのアプローチを積極化した
利用者が「店舗で商品のQRコードを読み取り、帰宅後にアプリ内で商品を再度見て、ECサイトに遷移して購入する」ことを想定した機能
大型顧客がヤプリを導入し、土日にPUSH通知(100万件/日)が集中。システムダウンへ。(バッチの分散実行で対処したと推察)
AppsFlyer社の計測ツールとの連携が可能に。アプリ内の計測精緻化を実現
ユーザーの属性(年齢・性別)に合わせて、定期的にPUSH通知を送る機能をリリース。誕生日向けのクーポン発行が容易に
出資者はグロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、YJキャピタル、川田尚吾氏(DeNA共同創業者)。みずほ銀行からは借入金による融資を受けた。合計6.7億円の調達(出資と借金の合計額)
上場に向けたガバナンスの強化と推察される
人員拡大のため移転。移転先は東京都港区赤坂2丁目14-27国際新赤坂ビル東館19F
類似業態のアプリ作成サービスを買収。アップセルは飲食店や美容室向けに強み。取得額は非開示。なお、システム統合には1年〜2年を要した(会員IDの統合・AWSのインフラ統合などに苦戦)。
タクシー広告やYoutubeに対して、動画広告の出稿を開始。神保悟志氏 東京03角田氏などを起用。代理店は博報堂と推察
業容拡大により移転(従業員数:前回の移転時約60名→今回の移転時約160名)。移転先は東京都港区六本木3-2-1住友不動産六本木グランドタワー41階
2019年にヤプリは、最大で30億円の資金調達を発表した。第三者割当増資で最大22億円(実績14.2億円の調達)の調達を予定。また、銀行から最大8.5億円の借入を実施し、合計30億円の資金調達枠を確保した。
法人顧客を獲得するために、インサイドセールスのチームを立ち上げ。(freee出身の高橋知久氏がチームの立ち上げを担ったと推察)
2019年にヤプリは株式上場を目指したが、出資者(VC)からより大きな時価総額での上場を目指すことを進言されたことから、上場を一旦延期した。
この時に、ヤプリの共同創業者3名が保有する株式の一部について、3つのVC(YJキャピタル、グロービス、EightRoads)がそれぞれ取得することを決定し、創業者は上場前ながらも一定の金銭的なリターンを確保した。
2019年5月から株式の移動を開始し、庵原保文(社長)は約1.4億円、佐野将史(CTO)は約1.4億円、黒田真澄は4870万円で、それぞれ保有していたヤプリの普通株式をVCに売却した。(推測だが、創業期から年収600万円という報酬であった共同創業者を労う意図もあったと思われる。)
2017年の時点で、Yappliの顧客向け管理画面(CMS)は機能追加とともにコードが複雑化し、新規機能の追加がスムーズに行えない状況に陥っていたという。そこで、Yappliは管理画面のコードの刷新を決断し、疎結合なコードによって新規機能の追加コストを低下させることを目論む。
なお、2013年に書かれたコードは、CTOの佐藤氏がPHPで実装したものであった。ただし開発スピードを優先したため「クラスほぼなし」「静的解析なし」「関数なし」という状況であり、保守性に重大な課題があった。Yappliの社内でも「技術的な負債」という認識がなされていたらしい。
また、DBのテーブルにはjsonが格納されるカラムが存在しており、スキーマ定義の解読を困難にしていた。
そこで、2018年2月にヤプリ の社内で移行のコンセプトの策定を開始し、2018年7月より移行作業を開始。その後2年かけてコードの刷新を行いつつ機能追加にも対応し、2020年7月に移行作業を完了した。
なお、3年かけてサーバーサイドの言語をPHPからGoへ移行。フロントエンドもphpによるレンダリングから、Nuxt.jsに移行した。日本におけるGoコミュニティーで著名なメルペイの上田卓也氏を顧問として迎え入れるなど、全社を挙げてコードの移行を推進した。
ただし、YappliにおけるCMSとは別の、ネイティブアプリ向けのバックエンドは、PHPの稼働を継続している。こちらもクラスやテストがない2013年の実装が母体となっており、2022年時点では保守性が高い状況とは言えない。このドメインが移行対象にならなかった理由は、推察になるだが費用対効果の面から移行するメリットを、CMSほどに見出せなかったものと思われる。
(こちらの「https://tech.yappli.io/entry/yappli_php_test」テックブログのコードを拝見しましたが、クラスがないのでphpunitでmockができなかったというのが、結構なつらみですね。。)
2020年5月以降はマザーズ市場の高騰が追い風となり、2020年12月にヤプリは東証マザーズへの上場を果たした。
株式上場後もヤプリは積極的な広告宣伝による投資を実施。2020年以降はテレビCVへの出稿を通じた広告宣伝を強化しており、2021年度には10億円の広告宣伝費への投資を実施した。
スモールビジネス向けの「Yappli Lite」を市場に投入。プライシングは月額39,800円または年一括417,600円。事業責任者は小野昭彦氏(FY2022時点)
東京大学・工学系研究科を卒業し、DeNAに入社。その後はKyashを経て2018年6月にヤプリ入社。サーバーサイドエンジニア→テックリード→プロダクト開発本部長を歴任