戦前の1939年6月に昭和肥料と日本電気工業が合併し、昭和電工株式会社が発足した。両社は共に森氏が経営する「森コンツェルン」の企業であり、電気化学の事業を統合する意図があった。昭和肥料は「硫安(肥料)」、日本電気工業は「アルミニウム製錬」を主力事業としており、いずれも国内の水力発電所の余剰電力を活用する目的で、事業発展した企業であった。
森コンツェルンの原点は、明治41年に森矗昶氏(もり・のぶてる)によって設立された「房総水産」の創業に相当する。千葉県興津に工場を設置して、房総半島の海に生息する「カジメ」を原料として、ヨードの生産を開始したのが祖業であった。なお、明治時代を通じて味の素の創業家である鈴木家もヨードの生産に従事しており、房総半島には森家、三浦半島では鈴木家が、ぞれぞれヨード製造会社として競争を繰り広げた。
なお、大正時代に入ると鈴木家はグルタミン酸ソーダによる調味料「味の素」に進出したのに対して、森氏は塩化カリ(火薬・マッチの原料)および粗製硫酸カリ(肥料原料)の製造を開始して化学メーカーを志向。同じヨードを扱う事業が原点だが、食品事業(味の素)・化学事業(昭和電工)と異なる道を選択し、その後の発展で違いを生んだ。
房総水産は、第一次世界大戦(1914年〜1919年)において輸入原料が途絶すると、塩化カリの国内需要が増大し、森家の化学事業が発展する契機となった。ところが第一次世界大戦後の経済不況により、塩化カリ・硫酸カリ・ヨードの需要が低迷するなど苦境に陥った。このため、味の素の創業家が設立した水力電力会社「東信電気」と合併して経営再建に着手した。
森氏は戦前を通じて事業の積極展開を志向。余剰電力を化学関連に活かすために、1928年には東信電気と東京電灯が共同出資する形で「昭和肥料」を設立。1930年には川崎に硫安工場を新設し、1936年から国内初の硫安製造を開始するなど、国内における電気化学のパイオニア的な存在となった。
オイルショックによる原料高騰により国内におけるアルミ生産の競争力が喪失。昭和電工のアルミニウム精錬事業も赤字に陥った。そこで、昭和電工はアルミ製錬について50%を出資する子会社「昭和軽金属」に移管して投資負担等を軽減するとともに、累計700億円の有利子負債も子会社に移管した。
オイルショック後に化学メーカー各社がエチレンセンターの新設を控える中、1975年に昭和電工(鈴木治雄・社長)は業界内の暗黙の掟である「エチレンセンターの輪番投資」を破って新設を決定。1977年に大分石油化学コンビナートにてエチレンセンターを増設稼働した。
これだけの規模の会社になったら「カケ」なんかできませんよ。1975年7月のエチレンセンター建設にしても、同業他社から「無謀」呼ばわりされましたが、昭和電工、特に昭和油化内では一致して「やるべし」だったんです。「やるしかない」とね。世間が反対しても「家族」みんなが賛成してくれましたから、主人の私は安心して踏み切れました。
開き直り?そうかもしれません。なりふりは構わない。体面にこだわらないで自己責任を貫くという意味でね。ただ、企業はそれぞれ個性があるべきだと思うんです。誰もが皆同じことをやっているんじゃ、みんなが合併して一つの会社にした方がいい。ちょっと言い過ぎかな。要は、企業経営を1つの芸術に例えるなら、私は(皆とは)違う画風で、違う絵を描きたいんです。
慢性的な赤字体質から脱却するため「全社的構造改革」を発表。
2020年4月に昭和電工は日立化成の株式100%を9640億円で買収(取得原価ベース)。約1兆円弱の買収であり、昭和電工の歴史においても最大規模の買収となった。
昭和電工は「HDD」「カーボン」などが収益源に育ったものの、これらの利益を投資する成長事業が不在という問題に直面していた。そこで、昭和電工の経営陣は利益を「株主還元」ではなく、「企業買収」に投下する道を選択。日立化成が保有する事業のうち「エレクトロニクス(半導体封止材)・モビリティー((リチウムイオン電池の負極材))」を成長領域として位置付け、これらの事業に投資することを目論んだ。
2020年12月末の時点で、昭和電工のBSの概況は「総資産1.07兆円・純資産5194億円・自己資本比率は46.4%」の水準であった。これに対して、昭和電工による日立化成の買収価格は9640億円であり、買収によって「のれん」を3651億円計上。買収資金はみずほ銀行などからの借入によって捻出した。この結果、買収直後の2020年12月期末時点において、昭和電工の自己資本比率は「18.4%」に低迷し、財務リスクを伴う買収となった。
財務状況を改善するために、2021年度を通じて6事業の売却と、約1000億円の増資(公募)を行い、2021年12月期末時点の自己資本比率は24.0%に至った。
2019年7月に日立製作所は上場子会社(4社)の見直しを表明。企業価値向上の観点から、日立製作所が主力事業として位置付けるITと関連の薄い子会社の整理を決定した。見直しの対象となった上場子会社の1社が化学事業を担当する日立化成であった。
2020年3月時点で日立製作所は日立化成の株式を51.24%保有し、連結子会社として位置付けていた。だが、日立製作所は企業価値の向上に寄与しないと判断し、親子上場解消のために日立化成の株式売却を決定した。