1997年にCyberCash(米国本社・1994年設立)は、日本法人として「サイバーキャッシュ株式会社(ベリトランス)」を設立した。
当時はインターネットが普及途上にあり、ECサイトが徐々に立ち上がった時期にあった。CyberCashは米国内で50万会員を擁し、1日あたり1.5万件のトランザクションを扱い、電子マネー(CyberCoin)とクレジットカード決済を行う急成長企業であった。1996年にCyberCashは米国のナスダックに株式上場を果たしており、グローバル展開を見据えて日本におけるネット決済の普及に着目した。
なお、サイバーキャッシュの日本法人には、ソフトバンクを筆頭に、オムロン、オリックスなどの日本企業も出資した。
1998年にサイバーキャッシュはクレジットカード決済サービス「セキュアクレジットカードサービス」の展開を開始した。日本国内でクレジットカードによるネット決済サービスとしては、カード・コール・サービス(現在のGMOペイメントゲートウェイ)と並び、最先発企業となった。
当時のインターネットは、HTTP通信が主流であり、POSTされたクレジットカードの情報が盗用される危険性があった。このため、ネット決済の大半は「代引き」が一般的であり、クレジットカード情報をネットで入力することに拒絶感を抱くユーザーが大半であった。
そこで、サイバーキャッシュは1999年に「SSL暗号化通信」を採用してクレジットカードの情報を安全に通信するサービスを展開した。2000年にはSSL暗号化通信に必要なSSL証明書の販売代理店になるなど、HTTPSのインフラを同時に売り込むことで、クレジットカードの決済業者として台頭した。
2000年にサイバーキャッシュは、BuySmartのサービス提供を開始し、決済代行業に本格参入した。BuySmart Webは月額9.8万円で契約できるサービスで、SSL通信を採用してクレジットカード情報を暗号化し、24H/365日稼働できるサービスであった。
想定顧客はトランザクションが限られる中小規模ショップ向けであったが、月額利用額が高く「限られたECショップでしか導入できない」という声が上がったと言う。
当社のサービスは『質はいいのだけれど、価格も相応で、EC市場のトップランナー向け』という評判もありました。現在は、高品質はそのままに、低価格を実現したサービスも提供しています。多くの企業でご利用いただけると自負しています
ベリトランスの親会社であった米CyberCashがネットバブルの崩壊によって破綻。ベリトランスはSBIグループの経営支援を受け、SBIの系列企業として再建を目指す
2004年10月にベリトランスは大証ヘラクレスに株式を上場。有償一般募集により7.21億円を資本調達した。上場の目的は、取引先であるクレカ会社への信用醸成、および知名度向上による顧客獲得および採用の効率化であり、調達資金の用途は「クレカ以外の決済システム構築」「企業買収(の検討)」であった。
資本政策の面では、ベリトランスの株式上場後も、親会社のSBIグループは株式を保有し続ける道を選択。2007年3月末時点でSBIホールディングスはベリトランスの株式40.20%を保有しており、取締役CEOに北尾氏(SBIの代表)が着任していることから「実質支配」とみなされ、ベリトランスはSBIの子会社として運営された。
株式上場に伴って経営体制を刷新。ベリトランスを創業期から支えてきた沖田貴史氏が代表取締役COOに就任し、SBI(旧ソフトバンクファイナンス)出身者によって経営する体制をとった。依然としてSBIが大株主であったことから、取締役CEOにはSBIホールディングスの代表である北尾吉孝氏が就任し、大株主の立場からベリトランスの経営に関与した。
氏名 | 役職 | 略歴 |
沖田貴史 | 代表取締役COO | SBI出身 |
北尾吉孝 | 取締役CEO | SBI社長を兼務 |
山口智宏 | 取締役CFO | SBI出身 |
■津耕一 | 常務取締役 | ミリオンカード出身 |
城戸博雅 | 取締役 | SBI出身 |
2005年を通じて、ベリトランスは販売先として「ゲーム会社」が主な顧客として占めるようになった。
決済代行業界の中で、GMOペイメントゲートウェイが公共料金やZOZOTOWNといった「実生活で必然的に発生する決済」「伸び代のあるEC企業」との関係性を強化したのに対して、SBIベリトランスは「ソーシャルゲーム」という市場が急成長する領域で顧客を獲得していた。
ベリトランスは有価証券報告書において、売上高の10%超を占める相手先として「デジタルメディアマート(DMM.com)」が存在することを開示した。同社で扱う商材について、相応のリスクが存在することから、ベリトランス社として、リスクの高い加盟店に売り上げを依存していることを意味した
2007年度よりベリトランスはシステム開発(ソフトウェア資産への投資)を積極化。FY2007には前年度から約2倍となる2億円の投資を実施。FY2009には新決済サービス「VeriTrans3G」の開発に傾斜投資を実施した。
2010年ごろの開発体制は、自社の社員7名(SE含む)および外部パートナー企業からの常駐10名の、合計17名の体制であった。主な使用言語はjava。
沖田氏は中国市場に着眼。グローバルな決済サービスの構築を目論んで、アジア出身の20代の若者を積極採用し、2009年に銀嶺の取り扱いをいち早く開始した。以後、ベリトランスは銀嶺での決済が可能な代行会社として注目を集めた
さまざまな業種・業態において、すでに国内市場と海外市場の間に境界を設ける意味が薄くなりつつあります。当社においても、日本企業の海外進出に付いて行くのではなく、グローバルに見ても競争力のあるサービスを早期に構築し、日本企業のみならず、どんな企業が進出しても、迅速に応えられる体制を作りたい
ベリトランスは次世代決済システムとして「VeriTrans3G」の提供を開始した。EC事業者が3Gを導入すると、ベリトランスが提供する決済サービス(クレカ決済・コンビニ決済・電子マネー決済・銀行決済・銀嶺ネット決済)を複数導入できるものであり、決済システムの導入負担を軽減するサービスであった。決済を導入するための開発ツール(SDK)としては、java、PHP、.net、Rubyの言語についてそれぞれ提供。
3Gの開発について、ベリトランスのソフトウェアへの投資額(資産計上)は3〜4億円/年と推定。クレカ決済においてはセキュリティー(PCI DSS準拠)対応を実施し、EC事業者におけるクレカ情報の非通過を実現。
顧客向けの提供価格は「初期登録料・月額基本料」を従来据え置きとし、トランザクションベースの課金については最大1/3の値下げを決定。
2011年にSBIホールディングスは、グループ会社の統廃合を本格化し、非注力事業については事業売却を行った。SBIベリトランスは非注力事業とされ、一旦、SBIホールディングスが株式100%を取得した上で、売却先の選定に入ったと推察される。
SBIがベリトランスの将来性を悲観した理由は、定かではないが、クレジット決済代行における競争激化していることや、クレジット会社から要求されるセキュリティー水準を満たすためのシステム投資が増加することにあったと推察される。
2000年代を通じて、GMOペイメントゲートウェイ、SPSVといった老舗に加えて、DeNA系のペイジェントといった新規参入企業も出るなど、決済代行をめぐる競争が激化しつつあった。
また、ベリトランスの主な販売先(売上高の10%超)が、アダルト通販事業を運営するDMM.comであったこともリスク要因であった。これは、クレジット会社から「アダルト事業向けの決済停止」という判断を下されるリスクと常に隣り合わせにあることを意味する。実際に、2022年にマスターカードは、DMM.comにおけるクレジット決済を停止した。
これらを総合的に判断し、SBIホールディングスは、高収益・高成長であったベリトランスを手放す準備を始めたものと推察される。
現状において、SBIベリトランスは、引き続き日本国内のEC市場の成長の恩恵を受け、上場後も売上、経常利益とも年率10%を超える成長を続けており、この傾向は短期的には継続するものと見込んでおります。しかしながら、各EC事業者間での価格競争が進む中、電子マネーなど新たな決済手段が普及を始める一方、クレジットカード情報の取り扱い厳格化等によりシステム投資や運用コストの増加が収益圧迫要因となって行くものと予想しております。
クレジットカード情報のセキュリティーを強化するために、決済代行6社が「EC決済協議会」を設立して、ベリトランスも加盟を決めた。
加盟企業は国内のクレジットカードの決済代行会社であり、GMOペイメントゲートウェイ(GMO系)、スマートリンクネットワーク(SONY系)、ソフトバンク・ペイメント・サービス(ソフトバンク系)、DG、ペイジェント(DeNA系)と、ベリトランス(SBI→DG系)を含めた6社であった。
2013年にSBIホールディングスは、ベリトランスの株式100%を、デジタルガレージ(林郁・代表取締役社長)社に130億円で売却することを決定した。この売却により、SBIホールディングスは87億円の売却益を計上した。
DGがベリトランスを買収した理由は、DGが運営する既存のコンビニ決済代行事業(e-context)に加えて、手薄であったクレジット決済代行事業に本格参入する意図があった。インターネット普及とともに、クレジットカードの番号を通販で入力することに抵抗がない時代に突入しつつあり、決済手段も「コンビニからクレジット」に遷移することを見越した打ち手であったと推察される。
累計10年にわたってベリトランスの社長を歴任した沖田氏が退任を発表。理由は非開示だが、ベリトランスの売上成長が低迷したことによる引責退任と推定される。
以後、デジタルガレージによる経営支配の体制を鮮明化した