日本政府は金融機関に対して不動産の所有を制限したため、日本を代表する都市銀行であった富士銀行(現在のみずほ銀行)は不動産事業を分離するために日本橋興業(現ヒューリック)を設立した。日本橋興業は富士銀行に対して銀行店舗を賃貸することで不動産収入を確保する。
1965年から日本橋興業は親会社の富士銀行向けの銀行支店ビルの竣工を本格化。1965年から1979年にかけて東京都心部では「新橋・新宿・銀座・東大手・青山・兜町」の各所にビルを竣工した。
みずほ銀行は、財務体質の改善のため、保有する不動産を日本橋興業に融資した上で買わせた。このため、日本橋興業の借入金が増加し、財務体質が悪化した
営業収益の67.6%をみずほFGに依存。総資産2825億円に対して有利子負債1844億円(みずほFGからの借入が中心)であり有利子負債比率65.2%。このため、みずほFGに売上と財務リスクを依存している状況にあった。
みずほ銀行の副頭取であった西浦三郎氏は、2006年3月に日本橋興業の社長に就任し、財務危機に陥った同社の経営再建を託された。従来のヒューリックは銀行店舗や店舗跡地の不動産を賃貸する不動産会社に過ぎなかったが、東京都心部の駅前一等地を「買う」ことで、管理業ではなくでデベロッパーに業態展開することを目論んだ
私がみずほ銀行からヒューリックに転じたのは12年前。そして上場したのが9年前です。財務状況も悪く、これを何とかしなければ、と考えました。所有物件は、みずほ銀行の支店のビルが多かったので、まずは、容積率に余裕があるビルを建て替え、そこにテナントを集めるという方法でした。これによって財務の安定化を図ることができました。
社名を日本橋興業からヒューリックに変更。事業の積極展開に舵を切る
上場後の上位3位の大株主は、損保ジャパン(8.82%)・東京建物(8.82%)・明治安田生命(8.82%)であり、みずほ銀行の傘下から外れる形になった。よって、株式上場によってヒューリックは、資本関係の上でみずほ銀行との関連を薄くし、独立企業としての色彩を濃くした。
ヒューリックはリーマンショック時にも都心部の土地取得を継続。みずほ銀行からの融資によって資金調達を行なっており、2008年12月時点の総資産に対する有利子負債比率は77.8%(3729億円)に及んでおり、BSでリスクを背負った土地取得を実施。物件を2日で購入するかを決定するスピードを武器にし、東京都心部の地下鉄駅前の不動産を積極的に購入することで業容の拡大を目論む
なぜ仕入れることができるかというと、第一にスピードです。当社の場合、物件情報が寄せられてから2日で意思決定ができます。2日の間に物件を見て収益計算をして決断を下します。しかも金融機関との間で2千億円までならいつでも調達できる借り入れ枠があります。ですから決済の心配もない。そのため条件に当てはまる物件があれば、当社に真っ先に持ち込まれるようになりました。
ヒューリックは経営効率を高めるために、2008年度時点の基本戦略として「少数精鋭体制の堅持」を掲げ、具体的な数値目標として「従業員1人あたりの経常利益1億円」を設定。営業利益ではない理由は、土地取得の資金を銀行借入によって調達しており、金利もコスト(営業外費用)とみなす必要があるためであると推察される
生産性については、私がヒューリックに来た時に、役員と議論しました。そこで1人当たりの経営利益で評価することに決めました。当社の社員数は160人と大手に比べてはるかに小さい。しかし1人当たりの経常利益は3.6億円と、全上場企業の中でトップを誇ります。生産性を上げるためには、優秀な社員を増やすことにつきます。そのためには待遇面でも魅力あるものにする必要があります。当社の場合、給与は経常利益と連動するため、社員の平均給与は前期実績で1418万円。これは全上場企業で6番目に位置しています。
中目黒センタービルを売却することで固定資産売却益307億円を計上。同時に、不動産ポートフォリオの入れ替えを実施し、代替として神田ビル・九段ビル・虎ノ門ビルを取得。都心部オフィス街向けのビルを拡充
ヒューリックは経営不振に陥った上場企業「昭栄」を救済する形で経営統合を決定。統合比率はヒューリック:昭栄=3:1。昭栄の祖業は繊維事業(生糸)であったが、繊維産業の衰退を受けて不動産賃貸事業に転換したが、リーマンショックで経営が行き詰まった。両社ともにみずほ銀行系列の企業であったという経緯から統合に至った。なお、昭栄は千代田区神田などの都心部一等地に不動産を多く保有しており、ヒューリックは不動産資産を継承すること目論んだ。統合にあたって、昭栄の経営陣は全員入れ替えとなり、不動産資産の継承のみをメインとした。
不動産市場の回復を見込み、2012年から土地の積極取得を再開。2012年度に年間361億円の投資(投資CF > 有形固定資産の取得)を実施し、都心部の駅前土地を取得。主な取得用地はJR総武線浅草橋駅前の旧福井中学校跡地、品川駅前(旧芝浦水再生センター)など複数
不動産市況の回復とともに業績を拡大するヒューリックに株式市場の注目が集まった。2013年12月末時点で時価総額9263億円を記録
REIT立ち上げによる物件売却で、営業収益約1000億円を押し上げ。ただし一時的な要因でありFY2014のみ影響
10年間の長期経営計画を策定。2023年に経常利益830億円(2014年度は300億円台)の達成を数値目標に据えて「大手不動産会社と戦える総合的ポジション」を目指すことを表明した。
ヒューリック成長の立役者である西浦三郎氏が社長を退任して会長に就任。代表取締役はそのまま継続し、ヒューリックの経営に携わる
積極的なビル取得により、営業収益に占めるみずほFG(みずほ銀行)向けの比率が減少。FY2013時点の21.2%から、FY2017時点の9.2%へと低下させ、みずほFG依存の体質から脱却
東京都心部の一等地の地下鉄駅前に土地を確保したことでヒューリックは2011年から2019年にかけて9期連続の増益(当期利益)を達成。2018年の時点でヒューリックが保有する全物件のうち70%が東京23区に位置しており、東京への集中投資が結実した。