1966年に岡田甲子男氏が、東京都千代田区にて「有明特殊水産販売株式会社」を設立して天然調味料の販売に参入した。
創業当時は、アサリエキスを仕入れて、インスタントラーメン向けに販売する販売会社であった。しかし、アサリエキスの調達には季節性を伴う問題が存在した。
1968年に有明特殊水産販売は、豚・鶏・牛系の畜産系エキスの販売にシフトして経営の安定化を図った。また、畜産系エキスの内製化をするために、埼玉県越谷市に工場を設立して、食品メーカーに転身した。
主要な顧客は、一貫してインスタントラーメンのメーカーであり、インスタントラーメンの普及によって売上を拡大した。
1973年に有明特殊水産販売は、畜産系エキスの原料調達を効率化するために、畜産業が盛んであった九州に着目。岡田氏が佐世保市出身だった縁もあり、長崎県にて畜産エキスの生産工場を新設した。以後、アリアケジャパンは長崎県に主力工場を設置し、製造は九州・販売は東京圏を中心とした全国で行う体制を作り上げていく。
ただし、当時は天然調味料は労働集約産業であり、市場では化学調味料が主流であったこともあり、同社の売り上げは年関数億円に過ぎなかったという。
なお、埼玉県の生産拠点は、九州工場の拡充によって閉鎖された(閉鎖年は不明)。
1978年に岡田甲子男氏は畜産エキスの抽出を 自動化した工場を新設するために「日本食資工業株式会社」を設立した。総投資額は9億円であり、社運をかけた投資であったため畜産エキスの抽出工場は別会社として運営する形を取ったと推察される。九州第2工場は、天然調味料における畜産エキスの抽出を自動化した世界初の工場なり、同社の業容拡大を支える基幹工場となった。
岡田甲子男氏は、天然調味料業界では労働集約的な工程が多いことに着眼し、これらの抽出工程を完全に自動化することによって労務費を低減し、天然調味料の価格引き下げを目論んだ。これらの自動化工程は、あえて特許を取得しないことで、競合の参入を防いだという。
製造販売を「有明特殊水産販売株式会社」として継続し、エキスの抽出に限った製造は「日本食資工業株式会社」で行う体制を整えた。1990年に日本食資工業株式会社が有明特殊水産販売株式会社を吸収合併することで、アリアケジャパンとして発足している。現在のアリアケジャパンの法人としての設立年は1978年であるが、同社の実質的な創業が1966年であるのは、1978年に大きなリスクをとったことに起因していると言える。
1991年にアリアケジャパンは、日本証券協会に株式を店頭登録を実施した。合計45億円の資金調達を実施し、設備投資(16億円)および借入金の返済(21億円)に充当した。財務面においては、自己資金によって投資をまかなうこととし、借入金を全て返済することで無借金経営を選択した。
岡田社長は、食品添加物の表示義務づけを契機とする「市場の創造」によって売上高を拡大する方針を示した。
数年前までは地価の高騰で飲食店、特に外食産業の厨房が狭くなり、加えて人手不足などもあって出来合いの調味料の需要が増えた。そしてここにきて、外食産業の競争激化で合理化が一段と図られ、低コストで調達できる我々専業メーカーの天然調味料に対する需要が急激に増えている。ユーザーにとり大変な時代だが、我々にとってはまさに追い風だ。
(略)
食品添加物の内容義務付け。外食産業を中心とする急激な需要の伸び。加えて、なんといっても消費者の調味料に対する意識の変化が追い風となり、今後も成長を続けることだけは間違いない。だが、同業他社とのパイの取り合いにばかりに終始せず、今後は新たな需要を創造し、市場規模の拡大を図らねばならない。
1996年にアリアケジャパンは、年商に相当する100億円の投資を決断した。1996年3月期のアリアケジャパンの売上高104億円(当期純利益14億円)に対して、売上とほぼ同額の巨額投資を実行した。
それまでの主要顧客であったインスタントラーメン向けの「粉末天然調味料」の需要が低迷する中で、今後はコンビニなどの外食向けの「液体天然調味料」の需要が拡大すると判断した。そこで、バクテリアの培地にならないような品質管理を徹底するために、米国農務省(USDA)の衛生基準に準拠した工場の新設に踏み切った。また、工場の稼働にあたって工場の体系を整理し、九州旧第1〜4工場は「九州第1工場」とし、新設する工場は「九州第2工場」とした。
資金調達のために、アリアケジャパンは1995年に転換社債の転換で30億円、公募増資により46億円を調達し、合計76億円を資本市場から調達した。残りはアリアケジャパンが捻出する形をとり、無借金経営を継続した。
九州第2工場の稼働によって、アリアケジャパンは目論見通りに、外食産業やコンビニなどから天然調味料の受注に成功した。この結果、インスタントラーメン向けの粉末天然調味料が低迷する中で、これらのコンビニ・外食向けの液体天然調味料の販売が拡大し、2005年3月期にアリアケジャパンは売上高200億円を突破した。
また、収益性に関しても、売上高に対する当期純利益率が10%を超える水準をキープし、高収益企業であり続けた。
98年ごろまでのアリアケの主要顧客は、即席麺向けだった。しかし、同市場の苦戦を受け、即席麺向けの天然調味料は以後、ほとんど伸びていない。代わってこの5年、アリアケの成長を牽引したのが、惣菜などコンビニ向けと外食産業向けのビジネスである(略)
たとえば、九州第2工場を見学したある大手コンビニのバイヤーは、徹底した衛生管理と自動化ラインに驚きの声を上げた。コンビニや外食企業が、食の衛星・安全に対して使う神経はハンパではない。アリアケが化学調味料を使用しない「天然」系のメーカーであることも判断材料となって、バイヤーは取引開始を即決した。新工場は、こうした効果を次々にもたらした。
2019年にアリアケジャパンは、競争の激しい米国事業について、米国子会社を現地メーカーに売却する方針を決め、米国事業から実質的に撤退した。売却益133億円を計上したが、アリアケジャパンの海外展開における転機となった。
2019年以降は、中国を中心に海外展開を拡大しているが、いずれも100億円未満の規模であり、アリアケジャパンは依然として日本国内が売上高の主体となっている。
2021年度のアリアケジャパン株主総会において、白川氏の代表取締役社長の選任について、株主からの賛成比率は69%という低い水準であることが公表された。アリアケジャパンは社外取締役の比率が十分ではなく、機関投資家が反対票を投じた可能性がある。
2022年度の株主招集通知においても、アリアケジャパンは取締役候補7名のうち、社外取締役は3名を選出している。改善が見られないため、2022年6月の株主総会でも、白川社長の再任の賛成比率は78%という低い水準であった。
また、2021年6月の株主総会における「退任取締役2名に対する退職慰労金の支給」も問題になった。この議案に対してアリアケジャパンは株主招集通知において「監査等委員会において検討がなされましたが、意見はございませんでした」としているが、株主総会における賛成比率は60%台であり十分な支持は得られていない。
このため、アリアケジャパンは、高収益企業ながらも、ガバナンスに重大な課題を抱えた状態にあると判断する。