株主要求と会社対応12件
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株主要求と会社対応
アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)は、ワコムの資本政策と監督を問う株主提案がいずれも否決されると、翌年は取締役の選任と解任へ要求を絞った。2025年は槙野尚氏の取締役選任、50億円の自己株式の取得、TSRを指標とする株式報酬などを提案した。社外取締役の中嶋崇史氏が代表を務めていたリクロスエクスパンションの買収を取締役会のガバナンス不全とみて、2026年に洲濵陽一氏の選任と井出信孝社長・中嶋氏の解任を提案したが、否決された。
ワコムは、AVIの株主提案にはすべて反対する一方、重なる論点の一部は自らの議案として可決させた。2025年の定時総会では剰余金の配当等を株主総会でも決議できる定款変更を、2026年には相対TSRとROEを指標とする業績連動型の株式報酬を会社提案とした。自己株式は2026年3月期に取得せず、5月に上限15億円の取得を決めた。リクロスエクスパンションの取得価額は第三者機関の算定に基づき取締役会の承認を経たとし、中嶋崇史氏の選任も可決された。
要求と経緯要求5件・出来事12件
株主との対話:株主から会社に対する要求と経緯
| 種別 | 要求区分 | 日付 | 主体 | 対話区分 | やり取りの要旨 | 株主公表 | 会社公表 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 資本政策 | 自社株買い | 2025/05/07 | 株主提案 | 要求自社株買い50億円 | |||
| 2025/05/09 | 意思決定 | 確定自己株式1,100万株の消却 | — | ||||
| 2026/05/12 | 意思決定 | 確定自社株買い取得上限15億円 | — | ||||
| 配当方針 | 2026/05/12 | 意思決定 | 確定年間配当1株26円 | — | |||
| ガバナンス | 取締役選任 | 2025/05/07 | 株主提案 | 要求槙野尚氏の取締役選任 | |||
| 2025/06/26 | 株主総会 | 議案決議 | 否決槙野氏の取締役選任24.49% | — | |||
| 2026/04/24 | 株主提案 | 要求洲濵陽一氏の取締役選任 | |||||
| 2026/06/25 | 株主総会 | 議案決議 | 否決洲濵氏の取締役選任43.41% | — | |||
| 定款変更 | 2025/05/07 | 株主提案 | 要求監督委員会・買収提案の定款変更 | ||||
| 2025/05/07 | 書簡提案 | 要求配当の決定機関に総会を併存 | — | ||||
| 2025/06/26 | 意思決定 | 確定配当を総会でも決議する定款変更 | — | ||||
| 役員報酬 | 2025/05/07 | 株主提案 | 要求TSR指標の株式報酬への改定 | ||||
| 2026/06/25 | 意思決定 | 確定業績連動型株式報酬の導入 | — | ||||
| 取締役解任 | 2026/01/30 | 意思決定 | 確定リクロスエクスパンションの買収 | — | |||
| 2026/03/09 | 面談 | 買収価額の妥当性を質問 | — | ||||
| 2026/04/24 | 株主提案 | 要求井出社長・中嶋取締役の解任 | |||||
| 2026/06/25 | 株主総会 | 議案決議 | 否決井出社長の解任24.61% | — |
| 日付 | 主体 | 対話区分 | やり取りの要旨 | 株主公表 | 会社公表 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025/05/07 | 株主提案 | 要求自社株買い50億円 | |||
| 要求槙野尚氏の取締役選任 | |||||
| 要求監督委員会・買収提案の定款変更 | |||||
| 要求TSR指標の株式報酬への改定 | |||||
| 書簡提案 | 要求配当の決定機関に総会を併存 | — | |||
| 2025/05/09 | 意思決定 | 確定自己株式1,100万株の消却 | — | ||
| 2025/06/26 | 株主総会 | 議案決議 | 否決槙野氏の取締役選任24.49% | — | |
| 意思決定 | 確定配当を総会でも決議する定款変更 | — | |||
| 2026/01/30 | 意思決定 | 確定リクロスエクスパンションの買収 | — | ||
| 2026/03/09 | 面談 | 買収価額の妥当性を質問 | — | ||
| 2026/04/24 | 株主提案 | 要求洲濵陽一氏の取締役選任 | |||
| 要求井出社長・中嶋取締役の解任 | |||||
| 2026/05/12 | 意思決定 | 確定自社株買い取得上限15億円 | — | ||
| 確定年間配当1株26円 | |||||
| 2026/06/25 | 株主総会 | 議案決議 | 否決洲濵氏の取締役選任43.41% | — | |
| 否決井出社長の解任24.61% | |||||
| 意思決定 | 確定業績連動型株式報酬の導入 | — |
株主側の主張:アセット・バリュー・インベスターズ
現経営体制のもとで、当期純利益の配当金への分配は41%に留まり、現預金は3.2倍に増加。資本効率のさらなる改善に向け、また低迷する株主価値を是正する上でも、株主還元は拡充の余地がある
(中略)
ネットキャッシュが蓄積し続けている状況に鑑み、また株主価値の低迷を是正する上でも、自己株式の取得を引き続き継続することが望ましいと考えられる
(中略)
資本効率改善に向けて自己株式50億円を取得することが推奨される
株価低迷の主な要因は、井出社長の経営下におけるブランド製品事業の失速
(中略)
ワコムは現在株価が大幅に低迷するなど株価を意識した経営が実現できておりません。特に、経営戦略、資本市場の理解、資本分配及び投資戦略といった資質に不足しています。
また後述の通り現在の取締役会はガバナンス不全をきたしており、社外役員の増員によるガバナンスの強化が不可欠です。
(中略)
社外取締役である中嶋崇史氏について、これまでの企業価値への貢献は希薄であるといわざるを得ません。また、「同氏が代表取締役社長を務めるリクロスエクスパンションの、資本コストや株価を意識しない投資の決定」および「当社チーフ・オペレーション・オフィサーへの就任が不合理であること」から、取締役としての資質及び適性性に重大な疑義を認め、同氏の解任を提案します
会社側の主張:ワコム
このうち、戦略投資の拡大と資本政策に関しては、中期経営計画期間4か年におけるR&D控除前営業キャッシュフローは940億円のうち、成長投資としてR&D及び設備投資に620億円、技術資本提携に120億円以上を計画しております。特に株主の皆様への利益還元を経営の重要課題の一つとして位置づけており、更なる株主還元の充実を図るために、「Chapter 4」の期間中総還元性向50%以上とし、配当は年間22円を下限とする累進配当に加え機動的な自己株式の取得を実施する計画としております。2025年度における株主還元計画は年間22円の配当に加え、総還元性向で50%以上となるように適宜自己株式取得を実施する予定をしております。
一方、本株主提案は約50億円の自己株式の取得を1年間で行うことを求めておりますが、この規模は、当社の会社計画の配当を合わせると、当社の2025年度利益計画に対する総還元性向は90%超となります。本自己株取得については、「Chapter 4」で計画している投資金額等のキャッシュ・アロケーションを踏まえて検討された金額ではなく、仮に本株主提案の内容を実施した場合、「Chapter 4」で計画している設備投資・成長投資などが難しくなり、結果として「Chapter 4」の計画実現が困難になると考えております。「Chapter 4」の計画実現が困難になることは、株主の皆様の中長期的な利益を損なうことになると認識しております。したがって、本株主提案の規模の自己株式の取得を1年間で行うことは、当社が成長投資を円滑に遂行する上で、適切ではないと考えております。なお、株主提案者が指摘する手元現預金に関しては月商の2か月程度であり、適正な水準にあると認識しております。
当社取締役会は、株主より提出された取締役2名(代表取締役社長 井出信孝(以下、「井出社長」)、業務執行取締役 チーフ・オペレーション・オフィサー 中嶋崇史(以下、「中嶋取締役」))の解任を求める株主提案について、独立社外取締役が過半数を占める取締役会及び指名委員会において、慎重かつ多角的な審議を行いました。株主提案において指摘されている事項について、当社取締役会及び指名委員会において事実関係の確認及び検証を行いましたが、以下に記載するとおり、いずれも取締役を解任すべき理由は認められませんでした。また、両氏の再任にあたっては取締役会及び指名委員会において、その能力、経験及び人格について厳正な審査を行いましたが、両氏は当社の取締役として引き続き職務を遂行するにふさわしい資質と適格性を備えており、両氏の再任は当社の企業価値向上及び株主共同の利益に資するものと判断いたしました。
(中略)
なお、井出社長就任前の2018年3月期から2026年3月期において、売上高は822.6億円から1,100.0億円、営業利益は35.3億円から133.8億円に大きく成長しております。またROEも10.7%から28.1%に改善するなど、井出社長就任後の当社のマネジメント体制は、当社の企業価値向上に大きな貢献をしていると考えております。
上記のような井出社長就任後の実績を踏まえ、当社取締役会は、当社取締役会に深刻なガバナンス不全が存在するとの提案株主による指摘については、事実に基づかないものであると判断しております。
ワコムの取締役(2024年6月可決・当時)
筆者見解(歴史的文脈から見た視点)
要求区分の一覧19種類
アセット・バリュー・インベスターズの要求区分:公開資料からの推定
ワコムに対し、アセット・バリュー・インベスターズがどの要求区分(投資ファンドが要求する項目を独自に一般化したもの)を、どの手段で伝えたかを、公開資料で確かめられる範囲で○を付けて示す。
| 種別 | 要求区分 | 定義 | 株主提案 | 招集請求 | 書簡提案 | 面談提案 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 資本政策 | 特別配当 | 通常の配当に上乗せした、一度きりの配当 | ||||
| 配当方針 | 1株配当の引き上げ、配当性向・DOEの目標の変更 | |||||
| 自社株買い | 自己株式の取得と、取得した株式の消却 | ○ | ||||
| 資本効率 | ROE・資本コストの目標、余剰資本の水準と使い道の方針。個別の還元策は特別配当・配当方針・自社株買い | |||||
| 政策保有株 | 取引先などと持ち合う政策保有株式の売却・縮減 | |||||
| 保有資産 | 現預金・不動産など事業に使っていない資産の売却・活用。政策保有株式は除く | |||||
| 事業戦略 | 上場子会社 | 上場子会社の完全子会社化・売却・持分の扱い | ||||
| 非中核事業 | 本業から外れた事業・子会社・資産の売却。上場子会社は除く | |||||
| 経営戦略 | 経営戦略・中期経営計画・事業ポートフォリオの見直し | |||||
| M&A・提携 | 会社が進める買収・統合・資本提携への反対、条件の見直し | |||||
| 非公開化 | 株式の非公開化・MBOの実施、その条件の見直し | |||||
| 買収提案 | 株主自らが買い手となる株式の買付けの提案と、取締役会への賛同の要請。会社が進める買収はM&A・提携、非公開化の実施は非公開化 | |||||
| ガバナンス | 取締役解任 | 特定の取締役の解任、再任への反対 | ○ | |||
| 取締役選任 | 株主が推す候補を含む取締役の選任 | ○ | ||||
| 取締役会構成 | 独立社外取締役の比率、議長と社長の分離など取締役会の構成 | |||||
| 定款変更 | 株主総会で決められる事項を増やすなどの定款の変更 | ○ | ○ | |||
| 役員報酬 | 役員報酬の水準・仕組み・業績との連動の見直し | ○ | ||||
| 買収防衛策 | 買収防衛策の廃止、導入への反対 | |||||
| 非公開 | 非公開面談 | 面談など公表されない場で伝えた要求。中身は非公開 |
参考文献9件
参考文献
| 日付 | 公表 | 種類 | 要旨 |
|---|---|---|---|
| 2025/05/07 | 株主公表 | AVIの資料 | 「ワコムの未来を描く」(2025年版)の公表 |
| 2025/05/29 | 会社公表 | 招集通知 | 第42回定時株主総会への株主提案 |
| 2025/06/30 | 会社公表 | 臨時報告書 | 第42回定時株主総会への株主提案 |
| 2026/05/13 | 株主公表 | 変更報告書 | 第43回定時株主総会への株主提案 |
| 2026/05/14 | 株主公表 | AVIの資料 | 東山茂樹検討委員会委員長との面談 |
| 2026/05/14 | 株主公表 | プレスリリース | 第43回定時株主総会への株主提案 |
| 2026/05/28 | 会社公表 | 招集通知 | 第43回定時株主総会への株主提案 |
| 2026/06/24 | 会社公表 | 有価証券報告書 | 自己株式1,100万株の消却 |
| 2026/07/01 | 会社公表 | 臨時報告書 | 第43回定時株主総会への株主提案 |