東芝の会社分割案(2分割)と臨時株主総会での否決
2022年破談なぜ東芝の会社分割案は株主総会で否決され、再建は非公開化へと向かったのか?
- 概要
- 2021年11月、東芝は会社を3つに分割する再建策を打ち出したが、株主の反発で翌2022年2月に2分割案へ縮小した。2022年3月24日の臨時株主総会で2分割案は過半数の賛成を得られず否決され、出資受け入れを求める株主提案もあわせて否決された案件である。
- 背景
- 2015年の不正会計と米原発子会社の巨額損失で経営危機に陥った東芝は、増資で物言う株主が株式の2割超を握る構成となった。2021年のCVCによる非公開化提案が頓挫した後、上場を維持したまま企業価値を高める策として事業分割が浮上していた。
- 内容
- 当初の3分割案はインフラ・デバイスをスピンオフし存続会社がキオクシア株を管理する構想だったが、株主の懐疑を受け2分割案へ修正した。だが筆頭株主エフィッシモやISSが反対し、第2位株主3Dは買収提案を募るよう要求。総会では会社案も株主案も過半数に届かず、ともに否決された。
- 含意
- 価格や戦略合理性以前に、誰も過半数を握れない分裂した株主構成が決着を左右した。会社の分割案も株主の買収要求もともに否決され、再建戦略は白紙化。最終的に2023年のJIPによる非公開化で決着し、上場維持・分割・非公開化の三すくみは市場退出という形で幕を閉じた。
株主が決めた再建の方向
この破談を分けたのは、価格でも戦略合理性でもなく、株主の意思であった。会社は分割こそ企業価値向上の道だと信じ、物言う株主は買収提案を募れと迫った。だが2022年3月の臨時株主総会では、会社案も株主案もともに過半数を得られなかった。誰一人として過半数を握れない株主構成のもとでは、経営陣の描く再建策が、株主総会という関門で立ち往生しうる。上場を維持したまま大株主と対峙し続けることの難しさが、議案の二重否決という珍しい形で可視化された一件だったとみられる。
分割案の否決は、東芝の迷走の終点ではなく、非公開化という次の局面への入り口であった。2021年のCVC提案の頓挫、2022年の分割案否決、そして2023年のJIPによる非公開化——上場維持か、分割か、非公開化かをめぐる三すくみは、最終的に株式市場からの退出という形で決着した。株主主権が強まる時代に、再建の方向性そのものを株主総会が左右しうることを、東芝の一連の攻防は示している。成立しなかった分割案にも、日本企業のガバナンスと株主構成の変質を読み解く手がかりは多く残されているのだろう。
統合の背景
不正会計とアクティビストの台頭
東芝が会社分割という再建策にたどり着いた背景には、長く尾を引いた経営危機があった。2015年に発覚した不正会計問題に続き、買収した米原子力子会社ウェスチングハウスの巨額損失が表面化し[1]、同社は債務超過の瀬戸際に立たされた。2017年には約6,000億円の第三者割当増資で急場をしのいだが、その引き受け手の多くが海外の投資ファンドであったため、結果として物言う株主(アクティビスト)が株式の2割超を握る株主構成へと変わっていった[2]。経営の立て直しと、利益還元や経営関与を強める大株主への対応とを同時に迫られる構図が、その後の混迷の通奏低音となっていたとされる。
CVC提案の頓挫と「分割」という解
2021年4月、英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズによる約2兆円規模の非公開化提案が、社長辞任の直後に頓挫した[3]。これを受けて東芝は、社外取締役を中心とする委員会のもとで、上場を維持したまま企業価値を高めるための戦略的選択肢の検討に入る。経営陣と物言う株主との対立は、2015年の不正会計以来すでに数年に及び[4]、出口の見えないまま続いていた。会社を一体で立て直すのではなく、事業ごとに切り分けて市場の評価を高めるという発想が、この検討のなかから浮かび上がっていったとみられる。
統合の発端
公表経緯——会社3分割計画の発表
分割案が公になったのは2021年11月12日であった。東芝はこの日に公表した中期経営計画で、会社全体を三つの独立した会社へ分割する方針を打ち出す[5]。エネルギーやインフラを担う「インフラサービスカンパニー」、半導体やハードディスク駆動装置を担う「デバイスカンパニー」を、いずれもスピンオフによって切り出し、東芝株主に新会社の株式を分配する。残る存続会社は「東芝」の名を受け継ぎ、半導体メモリー大手キオクシアホールディングスの株式などを管理する[6]。2023年度下期の上場完了を目標に掲げた、国内では例のない大規模な分割構想であった。
だが分割という解は、当初から株主の歓迎を得られなかった。発表の直後から、物言う株主は分割案に強く反発し[7]、その戦略合理性に疑問を投げかけた。短期での株価上昇を求める投資家にとって、上場完了まで2年近くを要する分割は時間がかかりすぎ、分割で生じるコストや、グループ一体で築いた信用が損なわれる懸念も拭えなかったとされる。会社側は分割を企業価値向上の切り札と位置づけたが、その理屈は大株主に十分には共有されず、「失望」という言葉で受け止められた[8]。経営陣と株主の溝は、分割案によってかえって深まった面があった。
統合の経過
3分割から2分割への修正
株主の反発を受けて、会社は計画をわずか3カ月で手直しした。2022年2月7日、東芝は3分割案を撤回し、半導体などの「デバイス」事業のみを分離・独立させ、発電機器などの「インフラサービス」事業は本体に残す2分割案へと修正したと発表する[9]。あわせて、注力しないと判断した空調・昇降機・照明のビル3事業を売却する方針も示した[10]。3社をスピンオフする当初案に比べ、切り分けを一つにとどめることで実現性を高めようとする軌道修正であったが、それでも株主の不信を解くには至らなかった。分割そのものへの賛否という、より根本的な問いはなお残されていた。
総会直前の攻防——筆頭株主とISSの反対
3月24日の臨時株主総会が近づくと、会社と大株主の攻防は最終局面を迎えた。3月、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が、会社の分割計画の実施に関する議案に反対するよう株主に推奨する[11]。筆頭株主でシンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントも反対を表明した。さらに第2位株主の3Dインベストメント・パートナーズは、会社に他社からの出資受け入れなど戦略的選択肢を積極的に検討するよう求める株主提案を提出し[12]、買収提案を募るべきだと主張した。会社提案と株主提案が同じ総会で正面から競い合う構図となった。
統合の帰結
臨時株主総会での二重の否決
2022年3月24日、東芝の臨時株主総会で決着がついた。会社が提案したグループの2分割案は、過半数の賛成を得られず否決される[13]。デバイス事業を分離・独立させ、インフラサービス事業を本体に残すという計画は、ここで頓挫した。同時に諮られた、出資受け入れなど戦略的選択肢の検討を求める株主提案も、過半数に届かず否決された[14]。各議案はいずれも可決に過半数の賛成を要したが、会社案も株主案もその水準に達しなかった[15]。物言う株主のあいだでも足並みはそろわず、東芝の再建に向けた戦略づくりは振り出しに戻ることとなった。
否決は、その月に就任したばかりの島田太郎社長兼CEOにとって、いきなりの試練となった。総会で議長を務めた島田氏は、結果を受けて「株主から示された意見を踏まえ、企業価値向上に向けてさまざまな戦略的選択肢を検討する」と述べ[16]、分割に固執しない姿勢を示した。市場の反応は冷ややかで、否決を受けて東芝株は3%下落した[17]。会社の描いた青写真も、買収提案を募れという株主の要求も、ともに過半数の支持を欠いたという事実は、東芝の株主構成がいかに分裂していたかを物語っていた。誰も過半数を取れない総会が、結果として次の一手を縛ることになった。
JIPによる非公開化での決着
否決によって白紙に戻った再建戦略は、その後、非公開化という別の出口へと向かった。東芝は2022年4月、非公開化を含む戦略的選択肢を広く公募し、複数のファンドが応じる。2023年3月、東芝は投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする国内連合による買収提案を受け入れることを決めた[18]。同連合は2023年8月8日から1株4,620円・総額約2兆円規模のTOB(株式公開買い付け)を実施し、9月21日に成立を発表する。応募比率は78.65%と、成立に必要な66.7%を上回った[19]。これにより東芝は同年内に上場廃止となり、上場企業としての歴史に幕を下ろした。前年に否決された分割案は、結局この非公開化への伏線でもあった。
- 日本経済新聞 2021年11月12日「東芝綱川社長、分割3社『株の持ち合いしない』」
- 日経ビジネス電子版 2021年11月15日「東芝3分割案に『失望』、物言う株主が反発」
- 日本経済新聞 2022年2月7日「東芝が空調子会社売却、3分割は2分割に 再編計画見直し」
- MONOist 2022年2月8日「東芝は3分割から2分割へ、非注力のビル3事業を売却し研究開発体制も確定」
- 日本経済新聞 2022年3月10日「東芝分割計画、筆頭株主が反対 米助言会社は反対推奨」
- 日本経済新聞 2022年3月24日「東芝臨時株主総会、2分割案否決 株主提案も否決」
- Al Jazeera 2022年3月24日「Shareholders at troubled Toshiba vote down spin-off plan」
- MONOist 2023年9月22日「東芝が非公開化で再出発、JIP含む国内連合によるTOBが成立」
- 日本経済新聞 2021年4月20日「東芝買収、事実上の交渉中止 英CVCから『検討中断』」