昭和電工と昭和電工マテリアルズの統合・レゾナック発足
2023年成立「小が大を飲む」買収から始まった統合は、なぜ「第2の創業」と呼ばれ、半導体後工程材料の世界級企業を生んだのか?
- 概要
- 2023年1月1日、昭和電工と完全子会社の昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が統合し、持株会社レゾナック・ホールディングス(証券コード4004)と事業会社レゾナックが発足した案件。半導体後工程材料で世界級の機能性化学メーカーが誕生した。
- 背景
- 日立製作所が「選択と集中」で上場子会社を整理し、御三家の一角だった日立化成を売却。汎用素材の市況変動に収益を左右されてきた昭和電工は、半導体・電子材料など高機能材料への事業転換を急いでいた。
- 内容
- 昭和電工が2019年に日立化成へTOBを実施し約9,640億円で完全子会社化(昭和電工マテリアルズへ改称)。2023年に持株会社体制へ移行し、両社事業を事業会社レゾナックへ統合、グループ名をレゾナックへ刷新した。
- 含意
- 「小が大を飲む」買収を起点とした統合で、グループは発足を「第2の創業」と位置づけた。新会社売上高は約1兆3,000億円、うち半導体・電子材料が約4,000億円を占め、後工程材料でグローバルトップを掲げた。
「買収」から「統合」へ、そして事業転換へ
レゾナックの発足は、汎用素材メーカーが市況依存の体質から抜け出し、半導体材料という成長領域へ軸足を移そうとした事業転換の象徴とみることができる。起点となった日立化成の買収は、自社より大きな相手を取り込む「小が大を飲む」案件であり、巨額ののれんを抱える賭けでもあった。買収それ自体が目的ではなく、買った事業を自社の素材技術とどう一体化し、後工程材料の世界トップという具体的な像へ結実させられるかが、統合の成否を分ける論点であったといえる。社名の刷新は、その覚悟を内外に示す装置として機能した面があるだろう。
一方で、買収から完全子会社化、持株会社体制への移行、そして社名変更へと続く三年余りの段取りは、統合が一度の合意で完結するものではないことを物語る。完全子会社化で資本関係を固めたうえで、時間をかけて組織と事業を一つにまとめていく漸進的な進め方は、対等合併が主導権争いに陥りやすい統合とは対照的である。もっとも、のれん償却や市況の逆風という現実の重しは残り、半導体材料への選択と集中という戦略が本当に果実を生むかは、発足後の業績で問われ続ける。「第2の創業」と銘打った統合の真価は、社名ではなく事業の成果で測られていくのだろう。
統合の背景
マクロ環境——日立の「選択と集中」と昭和電工の事業転換
2010年代の日立製作所は、ものづくり中心の事業構造から、IoT基盤を軸とするデジタル企業への転換を急いでいた。その過程で同社は「選択と集中」を掲げ、上場子会社の整理を進めた[1]。日立化成は日立金属などと並ぶ日立御三家の一角と呼ばれた中核子会社であったが[2]、デジタル事業との親和性という新たな基準のもとで再編の対象に位置づけられる。2019年、日立は日立化成の売却方針を固め、総合化学メーカーの昭和電工に買収の優先交渉権を与え、グループ再編は最終局面に入った[3]。御三家の名門が日立グループの外へ出ること自体が、当時の産業界には大きな驚きをもって受け止められたとされる。
買い手の昭和電工も、自社の事業構造に課題を抱えていた。同社はアルミニウムや黒鉛電極、石油化学といった素材を広く手がける総合化学メーカーであり、市況の振れに収益が左右されやすい構造であった。5G通信や電気自動車の普及をにらみ、安定して成長する高機能材料へ事業の軸足を移すことが戦略課題となっていた[4]。日立化成は半導体やリチウムイオン電池の材料技術に強みを持ち、両社には高い親和性と強い補完関係があるとされた[5]。汎用素材に依存する体質からの脱却を目指す昭和電工にとって、日立化成の先端材料事業は事業転換の核となりうる資産であった。
統合の発端
「小が大を飲む」9,640億円のTOB
統合の起点は、2019年12月18日の発表であった[6]。昭和電工は、日立製作所が51%強を出資する上場子会社の日立化成を、株式公開買い付け(TOB)により完全子会社化すると正式に発表した。買い付け価格は1株4,630円で、総額は約9,640億円に上る[7]。当時の昭和電工の時価総額を上回る規模であり、「小が大を飲む」買収と評された[8]。社運を賭けたともいわれるこの案件は、森川宏平社長CEOのもとで進められ、先端材料分野で世界のトップ企業を目指す攻めの一手であった。買収完了の3年後をめどに、年間200億円以上の統合効果を実現する方針も示された[9]。
買収は段階を踏んで実行された。昭和電工は2020年4月21日、日立化成へのTOBが成立し、発行済み株式の87.6%を取得したと発表した[10]。その後の追加取得を経て、日立化成は2020年6月19日に上場を廃止し、昭和電工の完全子会社となった[11]。同年10月1日、日立化成は社名を「昭和電工マテリアルズ」へと改める[12]。日立グループの一員として半導体・電子材料を磨いてきた名門の化学会社は、こうして昭和電工の傘下に入った。完全子会社化により、両社の本格的な統合に向けた前提条件は整ったことになる。
統合の経過
持株会社体制への移行とレゾナックへの改称
完全子会社化の次の段階が、両社の本格的な統合であった。昭和電工は2022年3月9日、2023年1月1日付で持株会社体制へ移行し、グループの社名を「レゾナック」に変更すると発表した[13]。持株会社となる昭和電工は「株式会社レゾナック・ホールディングス」に、事業会社となる昭和電工マテリアルズは「株式会社レゾナック」に、それぞれ商号を改める枠組みである[14]。新社名「レゾナック(RESONAC)」は、英語の「RESONATE(共鳴する・響き渡る)」と化学を意味する「CHEMISTRY」の頭文字「C」を組み合わせて生まれた[15]。2022年9月29日の臨時株主総会で、この持株会社体制への移行が承認された[16]。
そして2023年1月1日、統合新会社レゾナックが発足した[17]。昭和電工はレゾナック・ホールディングスへ、昭和電工マテリアルズはレゾナックへと生まれ変わり、両社の事業は事業会社レゾナックのもとに統合された。グループはこの誕生を「第2の創業」と位置づけ、世界トップクラスの機能性化学メーカーを目指すと宣言した[18]。統合新会社の売上高は約1兆3,000億円(2021年決算ベース)に達し、うち半導体・電子材料分野が約4,000億円を占める[19]。汎用素材中心の事業構造から、半導体材料を中核とする高機能材料企業への転換を、社名の刷新とともに内外に示す節目となった。
統合の帰結
半導体後工程材料の世界級プレーヤー
統合がもたらした最大の果実は、半導体材料分野での突出した存在感であった。レゾナックは、半導体チップを基板に実装しパッケージにまとめる「後工程」の材料領域でグローバルトップ企業となった。高純度ガスやCMPスラリー、銅張積層板、感光性フィルムなど、後工程に使われる主要材料の多くで世界トップクラスのシェアを握る[20]。半導体材料事業の売上規模は2021年ベースで約2,665億円とされ[21]、シリコンウエハーを手がける専業を除けば世界でも有数の規模に位置づけられた。前工程の材料に比べて存在感が薄いとされてきた日本の後工程材料で、厚みを持つ企業が生まれた点に独自性があった。
新会社の舵を取ったのは、社長CEOの髙橋秀仁であった。髙橋は、レゾナックを世界トップクラスの半導体材料メーカーへと進化させると掲げ[22]、半導体・電子材料をコアとなる成長事業に据えた。一方で、統合には重い課題も残った。日立化成の買収では約5,000億円ののれんが発生し、その償却負担が収益を圧迫するリスクが当初から指摘されていた[23]。加えて石油化学など汎用素材の市況悪化も重なり、発足前後の連結業績は厳しさを増した。グループは一部事業の見直しを進め、半導体材料への選択と集中を加速させており、買収から統合、事業ポートフォリオの組み替えへと続く流れは、なお道半ばの局面にあった。
- レゾナック・ホールディングス(昭和電工)ニュースリリース 2022年9月29日「2023年1月1日、統合新会社『レゾナック』が誕生します」
- レゾナック 公式サイト「2023年1月1日、昭和電工はレゾナックに生まれ変わりました」(社名変更について)
- 日本経済新聞 2022年3月9日「昭和電工、23年に持ち株会社化 社名もレゾナックに変更」
- 日本経済新聞 2019年12月18日「昭和電工、日立化成買収を正式発表 9600億円でTOB」
- 日本経済新聞 2019年12月18日「昭和電工社長『機能性材料でトップに』 日立化成買収で」
- 東洋経済オンライン 2019年12月19日「昭和電工、『小が大を飲む』9640億円買収の成否」
- 日本経済新聞 2020年4月21日「昭和電工、日立化成へのTOBを完了」
- 日本経済新聞 2020年6月23日「日立化成、10月に『昭和電工マテリアルズ』に社名変更」
- 日本経済新聞 2019年11月26日「日立、グループ再編の最終局面に 日立化成売却で」
- 日本経済新聞 2020年6月18日「昭和電工、日立化成買収で出る『のれん5000億円』の重み」
- 財界オンライン 2023年3月16日「レゾナック・ホールディングス・高橋秀仁社長の決意『世界トップクラスの半導体材料メーカーになる!』」