1982

Adobe Systemsを設立(アドビ創業)

プリンターの普及に着目

Adobeの創業者はDr. John E. Warnock(ジョン E. ワーノック・1940年生〜)とCharles Geschke(1939年生〜2021年没)の2名である。ともにゼロックスに勤務していた同僚であり、Jhon Warnockは数学者でもあった。

1980年代を通じてパソコンが普及すると、出力装置としてプリンター(印刷)の需要が増加。出版印刷業におけるパソコンの普及をチャンスと捉えて、アドビを起業したという。

創業期は企業向けの複写サービスで日銭を稼ぎつつ、プリンター向けのフォントの開発に従事した。印刷時の拡大縮小に耐えるフォントを作るには、数学的なアプローチが必要であり、共同創業者の知見が生かされた。

ゼロックスとの競争

プリンター向けのフォントにおける競合は、競争創業者の出身会社であるゼロックスであった。しかし、ゼロックスはワークステーションと一体化したフォント(ページ記述言語)「Interpress」を開発しており、パソコンという新しい端末への対応に遅れた。このため、パソコン向けに焦点を合わせたアドビがフォントの開発競争で優位に立った。

1983年
Appleが出資

アップルの創業者スティーブ・ジョブズが、設立1年目のアドビのポテンシャルを見出して取引を投資した。ジョブズはアドビを買収することを目論んだが、共同創業者が断ったため出資するにとどまった。

決算
アドビの業績
1984年11月期(単体)
Revenue
2.2
$100M
NetIncome
0.05
$100M
1985

AppleにPostScriptを販売

アドビが開発したプリンター向けフォント「PostScript」がAppleの専用プリンター「LaserWriter」に採用された。アドビはAppleという大口顧客を得たことで業績を急拡大した。1986年時点でApple向けの売上高は84%を占め、急成長の反面、Appleへの売上依存というリスクを抱えた

決算
アドビの業績
1986年11月期(単体)
Revenue
16
$100M
NetIncome
3.58
$100M
1986年
NASDAQ株式上場

NAASDAQに株式上場。IPOの立役者は日系人でアドビの最高財務責任者であったBruno Nakano氏である。

決算
アドビの業績
1987年11月期(単体)
Revenue
39
$100M
NetIncome
8.98
$100M
1987

Illustratorを発売

グラフィックアーティストの妻がヒント

PostScriptに次ぐ製品として、1987年3月1日にIllustratorを発売。パソコンで印刷物のレイアウトを構成できるソフトウェアであった。パッケージ販売で価格は495ドル。当初は白黒のデザインのみ対応。

共同創業者のJhon Warnockの妻がグラフィックアーティストであったことがヒントになった。Warnock氏の妻は定規やナイフで仕事をこなしていたが、コンピュータでデザインが実現できると考え、当時としては画期的な印刷物をパソコンで描画できるソフトウェアIllustratorを開発した。

Illustratorの急成長

1987年に発売されたイラストレータは、グラフィックデザインの現場からナイフと定規を追放し、パソコンでデザインができる時代を先取りした。この結果、デザイナーからIllustratorは圧倒的な支持を集め、アドビはプリンタ向け言語のPostScriptというBtoB向け製品に加え、IllustratorというBtoC向けの強力な商品をラインナップに加えた。アドビの売上高は1989年に1億ドルを突破する。

決算
アドビの業績
1988年11月期(単体)
Revenue
83
$100M
NetIncome
21
$100M
1989

フォント戦争

AppleはMicrosoftとの共同開発で、アドビが独占するフォントの共同開発を発表。AppleはAdobeの株式を20%を売却した上で宣戦布告するなど、Appleとアドビの蜜月関係に終止符が打たれた。

決算
アドビの業績
1990年11月期(連結)
Revenue
303
$100M
NetIncome
64
$100M
従業員数
1317
1989

PhotoShopのライセンス契約を締結

PhotoShopのライセンス契約(1987年)

もともとPhotoShopは1987年にThomas Knollという、アドビとは関係のない個人プロジェクトによって創られた。その後、ThomasがPhotoShopを売り込むために会社巡りをする中で、アドビのWarnockが興味を示してライセンスの取得を決めた。ただし当初は写真画像の編集市場は小さいと見積もられ、PhotoShopはアドビで期待された事業ではなかった。

PhotoShopの急成長(1991年)

アドビの予想に反して、PhotoShopは瞬く間に市場を席巻した。1990年にMacintoch向けのPhotoShop1.0が発売される徐々に口コミでデザイナーの間で広がり、1991年3QにPhotoShopがIllustratorを売上面で凌駕し、アドビの主力製品に育った。このため、アドビ副社長は「神よ、PhotoShopをありがとう」と口にしていたという。

PhotoShopのライセンスを買収(1995年)

PhotoShopの好調を受けて、1995年にアドビは開発者のThomas Knollからライセンス契約を狩猟して、買収することを決めた。買収価格は3450万ドルであり、Thomas Knollは莫大な売却利を獲得する

決算
アドビの業績
1990年11月期(連結)
Revenue
303
$100M
NetIncome
64
$100M
従業員数
1317
1993

PDFの開発

パソコンにおける文章の共有を目的とした汎用フォーマットとしてPDFを開発。1990年代のPDFは有償利用であり普及しなかったが、2000年にAcrobat Readerの無償提供に方針転換して市場を掌握した。

決算
アドビの業績
1994年11月期(連結)
Revenue
675
$100M
NetIncome
15
$100M
1998年
減収減益決算。350名のレイオフを実施

Adobeの成長はDTP(出版業)に支えられていたが、1990年代を通じて競争が激化。増収の一方で利益率が低迷。1998年の減収決算を受けて350名のレイオフを決定した

決算
アドビの業績
1999年11月期(連結)
Revenue
1015
$100M
NetIncome
237
$100M
従業員数
2745
2000

Bruce Chizen氏がCEO就任(創業CEO退任)

Bruce Chizen氏のCEO就任(2000年〜2007年)

2000年にBruce ChizenがアドビのCEOに就任し、共同創業者と交代した。Bruce Chizen CEOは2000年から2007年までCEOを歴任。主な仕事として、Flashの技術を持つMacromedia社の買収(2005年)を決断し、インターネット領域におけるAdobeの主力事業の拡大を目論んだ。

Chuck Geschle氏が退任(2000年)

2000年に共同創業者の一人であるChuck Geschleが、60歳に近くなったためにアドビを退社した。Geschleはアドビでの経験を振り返って「一番の自慢は、Adobeが印刷と出版の業界を職人技からデジタルへ移行させたことだね」と語っている。

Jhon Warnock氏の退任(2000年)

2000年に共同創業者のもう一人、Jhon WarnockがCTOを退任してアドビから創業者が去る。創業時を振り返って、Warnockは「20年前に、Adobeが出版業界に重要な影響をもたらすと言われても、とても信じられなかったろう」と回想した。

決算
アドビの業績
2001年11月期(連結)
Revenue
1229
$100M
NetIncome
205
$100M
従業員数
3043
2005
12月

Macromedia, Incを買収

Macromediaは、長年アドビと各製品で競合しており訴訟合戦を繰り広げてきた競合会社。買収によって競争に終止符を打つとともに、Macromediaが保有するFlash(webブラウザにおける動画)の技術を取得した。

証言
Bruce Chizen(CEO)

The combination of [Acrobat’s] PDF [file format] and the Adobe Reader with Flash’s SWF [file format] and the Flash Player enables us to create an “engagement platform.” Think of it as a layer or a vehicle in which anybody can present information that could be engaged with in an interactive, compelling, reliable, relatively secure way — across all kinds of devices, all kinds of operating systems. If you look at the success that Adobe has had with Adobe Reader and the ubiquitous nature of that client combined with what Macromedia has done with the Flash Player — especially on non-PC devices — that puts us in a position that is probably better than anybody else’s.

決算
アドビの業績
2006年11月期(連結)
Revenue
2573
$100M
NetIncome
505
$100M
従業員数
6068
2007年
S.NarayenがCEO就任

S.Narayen(45歳)がアドビのCEOに就任。元Apple出身。Adobeにとって驚異であるMicrosoftとAppleへの対応が経営課題であった

決算
アドビの業績
2008年11月期(連結)
Revenue
3579
$100M
NetIncome
871
$100M
従業員数
7544
2009
10月

Omniture買収

webアクセスの解析サービスを展開するOmniture, Inc.(Nasdaq:OMTR)をTOBにより買収。web広告の費用対効果を算定するマーケティングツールの領域に新規参入した。また、アドビとして、SaaSへの知見を蓄積する買収となり、アドビ製品のSaaSへの転換(2013年・AdobeCreativeCloud発表)の布石となる。

決算
アドビの業績
2009年12月期(連結)
Revenue
2945
$100M
NetIncome
386
$100M
従業員数
8660
2010

AppleがFlash拒絶

AppleがFlash(動画の再生ソフト)への対応を拒絶し、iPhoneに搭載されるデフォルトのスマホブラウザ(Safari)がFlash非対応となる。AdobeはFlashを実質的に諦める形になり、Macromedia社の買収目的を達成できなくなった

決算
アドビの業績
2010年12月期(連結)
Revenue
3800
$100M
NetIncome
774
$100M
従業員数
9117
2018
10月

Marketo Inc.を買収

法人向けの顧客管理ツールを提供するMarketo社(PEファンドVistaが株式保有)の買収を決定。販促を行いたい企業向けに、web広告の出稿、メール送信、webページのパーソナライズ(キャンペーン展開)、コンバージョン解析といったサービスを提供した。

決算
アドビの業績
2018年12月期(連結)
Revenue
9030
$100M
NetIncome
2590
$100M
従業員数
21357
2022
9月

Figmaを買収

Adobe DXのライバル会社Figma

webデザインを支援するツールとして、Adobeは「Adobe XD」を展開していたが、2010年代を通じてFigma(2012年創業)が競合として台頭した。AdobeXDは有料課金でwebデザインに特化したデスクトップアプリケーションであったのに対して、Figmaはブラウザ上で機能するwebサービスとして展開。Figmaはインストール不要という使い勝手の良さから徐々に支持され、2020年代にはXDを脅かすほどに成長した。

競合であるFigmaの買収決定(2022年)

アドビはFigmaに対抗するのではなく、Figmaの買収によってUX/UIのデザインツールを強化する道を選択した。買収価格は2.9兆円と巨額であったが、アドビは月額利用のIllustratorやPhotoShopなどの高収益な事業が好調であり、これらの収益がFigma買収の原資となった。

決算
アドビの業績
2022年12月期(連結)
Revenue
17606
$100M
NetIncome
4756
$100M
従業員数
29239