2005年9月、バンダイとナムコが株式移転で共同持株会社バンダイナムコHDを設立し、東証一部に上場[1]した。統合前年度の売上高はバンダイ2,699億円(営業利益243億円)、ナムコ1,785億円(営業利益150億円)で、合わせて4,500億円規模のエンタメ複合企業が生まれた。[2]当時の玩具・アミューズメント業界は少子化で国内市場の縮小が見込まれ、IPを展開できる規模の確保が業界共通の課題となっていた。統合の発端は2004年から両社が共同で手掛けたプレイステーション2向けソフト『機動戦士ガンダム1年戦争』の開発にある[3]。共同開発を通じて両社の技術と事業の補完性が確認され、2004年12月にバンダイの髙須武男社長がナムコの中村雅哉会長へ本格的な提携を持ちかけたのが統合の端緒となった。[4]統合比率はナムコ1株に対し新会社1株、バンダイ1株に対し新会社1.5株とバンダイに有利な条件で決まり、規模で勝るバンダイ主導の体制が枠組みとして敷かれた。
ゲームソフトの外注に頼ってきたバンダイは、自社開発体制の厚いナムコと組むことで、企画から開発までの内製化に道を開いた。物販の少ない国内アミューズメント市場に縛られていたナムコは、バンダイが持つIP商品群を北米中心の販路へ乗せ、グローバル展開に着手した。少子化で国内の玩具市場やアーケード市場が縮むという時代認識を両社が共有したことも統合を後押しした。初代社長にはバンダイ出身の髙須武男が就き、[5]持株会社の組織枠組みづくりと、バンダイとナムコの異なる企業文化の橋渡しを担った。両社はそれぞれ玩具とアーケードという別々のチャネルで顧客接点を持ってきた経緯があり、商品企画とデジタル開発の融合は組織文化の摺り合わせから始める必要があった。
統合から数年は合併後の事業再編が続いた。2006年3月にはナムコからアミューズメント施設事業を新設分割して新生ナムコを設立し[6]、同時にバンダイのビデオゲーム事業部門をナムコ(後のバンダイナムコゲームス)へ吸収分割で承継した。2008年4月にはバンプレストから景品事業を新設分割し、バンダイナムコゲームスがバンプレストのゲーム事業を吸収合併する再編を実施し、[7]翌2009年にはバンダイネットワークスも吸収合併した。[8]玩具、ゲーム、アミューズメントの各業態を専門子会社へ整理する作業が断続的に続くなか、2010年3月期にバンダイナムコHDは初の当期純損失299億円を計上した。
リーマンショック後の需要減で売上高は3,785億円まで落ち、営業利益はわずか19億円まで縮んだ。さらにアミューズメント施設事業等の減損を含む特別損失219億円が上乗せされ、赤字を拡大させた。2008年6月にはナムコ出身の石川祝男が2代目社長に就いており、[9]この赤字期に構造改革の指揮を執った。翌2011年3月期には営業利益163億円まで戻ったが、発足初年度にあたる2006年3月期の357億円には届かず、統合の経営的果実を形にするにはなお時間を要した。統合5年目での当期純損失計上は、事業ポートフォリオの寄せ集めが外部環境の変動に耐えうるかを問う試金石となった。アミューズメント施設は集客が景気循環の影響を直接受けやすく、玩具やゲームと収益サイクルが揃わない事業特性があらためて浮き彫りとなった。
2012年3月期に営業利益は346億円まで戻り、2013年3月期には486億円、売上高は4,872億円に達した。回復を牽引したのはコンテンツ事業(現デジタル事業)で、2013年3月期にはセグメント売上2,517億円、セグメント利益364億円と統合後最高の水準を記録した。トイホビー1,659億円、アミューズメント施設601億円という事業ポートフォリオのなか、コンテンツ事業が利益の柱として前面に出てきた時期にあたる。玩具とゲームの垣根を越えて同一の知的財産を複数カテゴリーで同時展開する手法が具体的な数字に表れ始め、統合時に描いた事業間の相乗効果がようやく収益面で裏づけられた。携帯電話やスマートフォンを通じたソーシャルゲーム市場の急拡大も追い風となり、自社IPをデジタル領域へ広げる戦略が業績を押し上げた。
有利子負債はピーク時の2009年3月期208億円から2014年3月期には55億円まで縮小し、無借金に近い状態まで財務体質が軽くなった。自己資本比率も66%前後の水準を安定して維持し、統合後の再編期を乗り越えた体質の強さがうかがえた。ただしコンテンツ事業が好調に推移する一方、国内アミューズメント施設事業は2014年3月期にセグメント赤字9億円を計上するなど、事業間の収益格差は残ったままだった。デジタル領域で稼ぎ、施設運営で苦戦する構図は、後年に施設事業を専門子会社へ分離する判断にもつながる事業間の体質差を示していた。中核IPがデジタル事業で稼ぎ頭となる一方、リアルな店舗運営は依然として景気感応度の高さに足を引っ張られる構造が続いた。
2015年4月にバンダイ出身の田口三昭が3代目社長[10]に就いた。2015年3月期の売上高は5,654億円、営業利益は563億円となり、いずれも統合以来初めて発足初年度の水準を上回った。ドラゴンボール、アイカツ、アイドルマスター、機動戦士ガンダムなどの中核IPがデジタルとトイホビーの双方で同時に伸び、特定のヒット作品に依存しない収益構造が見え始めた。複数のIPを同時並行で育て、それぞれを複数の事業領域で展開する手法が安定収益の源泉として根づきつつあった。この年を境に、統合以降で最も長い業績拡大期に入り、複数IPの同時展開という手法が成長の柱になった。
2018年3月期には売上高6,783億円、営業利益750億円に到達した。セグメント構成はトイホビー2,132億円(利益144億円)、ネットワークエンターテインメント4,035億円(利益523億円)、映像音楽520億円(利益125億円)と、玩具単独でもゲーム単独でもない複合型の収益構造に固まった。2015年から2018年までの3年間で売上は1,200億円増え、営業利益は190億円積み上がった。統合以降で最大の連続成長期を記録した時期であり、後に5代目社長の浅古有寿はIP軸経営の土台を築いた時期として総括している。[11]玩具とゲームの垣根を越えた多事業展開が、統合時に描いた相乗効果をようやく数字で裏づけた段階にあたる。ネットワークエンターテインメント事業の利益率が13%近くに乗り、玩具中心時代の収益構造から距離を取る形が見えてきた。
2018年4月、バンダイのハイターゲット向け事業とバンプレストの景品事業を新会社BANDAI SPIRITSへ承継[12]させる組織再編に踏み切った。同時にバンダイナムコエンターテインメントのアミューズメント機器事業を新生ナムコ(現バンダイナムコアミューズメント)へ承継[13]させる吸収分割も実施した。子供向け玩具と大人向けフィギュア・ホビーを事業体として分離し、20代後半以上のコア層に照準を合わせた商品開発を専業化する狙いだった。ガンプラに代表される組み立て模型や、コレクター向けフィギュアといった高単価商品を扱う専門組織を設け、商品企画から販売までの意思決定を速める体制を整えた。
再編の効果は早い段階で表れた。2019年3月期の売上高は7,323億円、営業利益は840億円に達し、いずれも過去最高を更新した。ガンプラをはじめとするハイターゲット商材の売上拡大は、少子化が進む国内市場でも単価と粗利率の高いコア層へ主力を移せば成長が可能であることを裏づけた。海外展開面では2017年12月に中国本土の地域統括を担うBandai Namco Holdings China Co., Ltd.を設立し、[14]翌年には欧州でもBANDAI S.A.S.がトイホビー事業を譲渡して地域持株会社へ役割を切り替えた。[15]各地域の統括機能整備が並行して進み、日本発のIPを世界で展開するための現地拠点の役割分担が形を取り始めた時期にあたる。中国・欧州の地域統括会社設置は、それまで日本本社が直接手掛けてきた現地販売を、地域ごとの市場特性に合わせた経営判断へと委ねる転換でもあった。
2021年4月、4代目社長に川口勝が[16]就いた。川口はIR向けインタビューで、IP軸・事業軸・ターゲット軸・エリア軸の4軸からなるポートフォリオ経営を同社の強みとして提示し、[17]単一のIPや単一の事業に依存するリスクを同時に避ける枠組みを示した。同じIPでも玩具とゲームで別々のターゲット層に届け、同じ事業でも地域ごとに異なる展開を取るという多軸の戦略が、以後の業績拡大を支える土台となった。川口はバンダイ出身として玩具の現場経験を持ちつつ、[18]ナムコ・バンダイ両社のDNAを等しく引き継ぐ世代の社長として、IP経営の総合力を問う時期の舵取りを担った。
2022年3月期、売上高は8,892億円、営業利益は1,254億円、純利益は927億円に達し、いずれも過去最高を更新した。コロナ禍の巣ごもり需要が追い風となるなかELDEN RINGが世界的ヒットを記録し、デジタル事業を押し上げ、[19]並行してトイホビー事業も過去最高を記録した。統合から17年が経過し、IP軸経営が外部環境の追い風と重なった結果として、第1期に計上した299億円の赤字からの回復ぶりを示す数字となった。同年4月には東証プライム市場への移行と同時に、サンライズ[20]を吸収分割してバンダイナムコフィルムワークスを設立し、ガンダムIPの映像制作と権利管理を一元化した。川口は同時期のインタビューで、社員とともにさらにアグレッシブな会社にしていく方針として、次の成長像を語った。
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|---|---|---|---|---|
| 萬代屋を東京で創業 | ★ | |||
| 中村製作所を横浜で創業 | ★ | |||
| ナムコが「スペースインベーダー」後に業務用ゲーム機市場で台頭 | ★ | |||
| バンダイが機動戦士ガンダムのプラモデル(ガンプラ)発売開始 | ★★ | |||
| 髙須武男 | バンダイが携帯ゲーム「たまごっち」を発売 | ★★ | ||
| 髙須武男 | セガとの合併電撃発表と4カ月での破談 1997年1月23日、バンダイはセガ・エンタープライゼスとの対等合併を電撃発表し、同年10月1日付で新会社『セガバンダイ』を発足させる計画を示した。だが社内の反発を抑えきれず、契約締結前の同年5月27日に合併を解消した。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 2005〜2014年玩具とゲームの統合がIP軸経営に行き着くまで | 髙須武男 | バンダイとナムコの経営統合、バンダイナムコHD発足 2005年5月2日、玩具最大手のバンダイとゲーム大手のナムコは、同年9月に株式移転で共同持株会社バンダイナムコHDを設立し経営統合すると発表した。少子化で縮む国内市場を前に、キャラクターに強いバンダイとゲーム開発に強いナムコが補完し合い、IPを複数領域で展開する規模を確保した経営判断。 詳細を読む | ★★★ | |
| 髙須武男 | 初代社長に髙須武男が就任 | ★ | ||
| 髙須武男 | ナムコからアミューズメント施設事業を新設分割し新生ナムコを設立 | ★ | ||
| 髙須武男 | バンプレスト景品事業の新設分割とゲーム事業の吸収合併 | ★ | ||
| 髙須武男 | 石川祝男氏が社長に就任 | ★ | ||
| 石川祝男 | 初の当期純損失▲299億円を計上 | ★★ | ||
| 石川祝男 | 「IP軸戦略」への転換 2010年、バンダイナムコホールディングスは石川祝男社長のもとで『IP軸戦略』を掲げた。一つのキャラクター(IP)を玩具・ゲーム・映像・ライブへ横断展開する仕組みへ経営を組み替え、主要IPごとに担当役員を置いて全社で盛り上げる体制へ転換した経営判断。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 石川祝男 | 黒字回復(営業利益163億円、純利益18億円) | ★ | ||
| 2015〜2021年IP軸経営と大人向け市場の開拓が重なった成長期 | 石川祝男 | 田口三昭氏が社長に就任 | ★ | |
| 田口三昭 | ハイターゲット事業のBANDAI SPIRITSへの集約 2018年4月1日、バンダイナムコグループはバンダイのハイターゲット向け事業とバンプレストの景品事業を新会社BANDAI SPIRITSへ承継させる組織再編を実施し、大人のコア層に照準を絞った専業組織を立ち上げた。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 田口三昭 | 売上高7,323億円、営業利益840億円でさらに過去最高を更新 | ★ | ||
| 川口勝 | 川口勝氏が社長に就任 | ★ | ||
| 2022〜2025年売上1兆円突破と浅古体制による成長基盤の再設計 | 川口勝 | 売上高1兆502億円で初の1兆円台到達 | ★ | |
| 川口勝 | Legendary Picturesとガンダム実写映画の共同投資契約を締結 | ★ | ||
| 浅古有寿 | 浅古有寿が5代目社長に就任 | ★ |
免責事項およびポリシー
事実根拠:出所(バンダイナムコHD)