1990年10月に株式会サブ・アンド・リミナル(現・セプテーニHD)を設立。資本金は1500万円。創業時点の本社は東京都渋谷区代々木3-31-12代々木ハイツ507号室であり、マンションの1室であった。創業者はリクルート出身の七村守氏(リクルート・元北関東支社長)であり、7名で会社を独立開業した。
創業と同時に人材採用のコンサルティング事業を開始。就職情報雑誌「イソップ(ESOP)」の発刊や、翌1991年には「求人票楽々システム」の開発および商品化を行うなど、人材採用における補助サービスを展開した。
ちょうど1999年、会社設立10年目の頃。当時、当社は今のようなインターネット広告事業ではなく、アウトソーシング事業をしていました。この事業は順調に推移していたので、何かもう一つ事業の柱になるものがほしいと考えるようになりました。会社にも余裕が出てきたので、6ヶ月くらい利益を生み出さない事業でも将来性があればチャレンジしてみたいと思ったんです。
そんな時、現在セプテーニ社長の佐藤(当時、新卒入社3年目)が「もう今の仕事に飽きました。何か新しいことがしたい」と生意気なことを言ってきた(笑)。しかし、彼の気持ちも分かりました。私も前職のリクルートで同じようなことを考えていたので。ちょうど会社も新規事業にチャレンジする時期で、やりたいと手を挙げた人もいた。タイミングが良かったんです。そこでできたのが、ひねらん課というわけです。だから、ひねらん課は当初は佐藤一人のためにつくった部署みたいなものでした。
1990年代までの主力事業であったダイレクトマーケティング事業から撤退
2017年12月から電通はセプテーニHDと接触を開始。デジタル広告領域における提携関係の構築を模索していた。そして、2018年10月にセプテーニHDは、電通と資本業務提携を締結。電通はセプテーニHDの株式20.99%を88.5億円で取得し、セプテーニHDは第三者割当増資を実施した。
セプテーニHDは調達資金の用途について、事業投資に活用する方針を計画。ネットマーケティング事業に20億円、ネットメディア開発に20億円、マンガコンテンツ事業における販促投資に15億円、システム投資に5億円、M&Aに28億円の予算を設定した。
提携から約3年を経た2022年1月に、電通はセプテーニHDの子会社化を発表。セプテーニHDは第三者割当増資を実施し、電通はセプテーニの株式を取得し子会社化した。取得後の保有比率は約52%であり、セプテーニHDの株式上場は維持する形となり、電通とセプテーニHDは親子上場の関係となった。
セプテーニHDとしては第三者割当増資により、株式を発行した上で電通からの資金調達を実施。調達額は326億円であり、2022年1月4日払込を完了した。なお、326億円の調達資金は、電通のグループ会社である「電通デジタル」をセプテーニが取得するための資金として活用した。
そして、セプテーニHDは電通デジタルを312億円で買収。この取引によって、電通はキャッシュをほぼ消費せず、グループ会社を差し出すことでセプテーニHDを子会社化した。セプテーニHDによる電通デジタルの買収後は、これら2社の統合がPMIの論点となった。
2022年にコミックスマートはベンチャーキャピタルに対する第三者割当増資を決定。7.1億円を調達する一方、調達後のコミックスマートの株式保有比率は「セプテーニ89.4%・外部投資家10.6%」となった。この結果、コミックスマートはセプテーニの完全子会社ではなくなった。
資金調達を実施した理由は、マンガ領域における競争激化により、コンテンツ開発や販促に積極投資を行う必要が生じたためであった。
ただし、コミックマーケットは赤字と推定され、セプテーニが貸し付けを行うのではなく、外部からの調達を選択した。したがって、セプテーニとしては、コミックスマート社に対する投資を縮小(段階的撤退)することを選択した。
2023年12月にセプテーニHDはコミックスマートの保有株式(56.88%)を一部売却することを発表。これにより、コミックスマートは連結子会社から外れ、持分法適用会社となった。売却先は、ベンチャーキャピタルとされたが非開示となった。
株式譲渡実行日は2024年3月31日までとされ、財務に対する影響はFY2024となった。
セプテーニはコミックスマートの株式売却額を公表していない。FY2023期末時点で、新たに「売却目的で保有する資産」として8.0億円を計上しており、セプテーニが保有するコミックスマートの価値と推定される。
売却後のセプテーニによる保有は32.57%であることから、売却時点におけるコミックスマートの評価額は24.56億円と推定される。したがって、セプテーニが売却した保有比率が56.88%であることから、13.96億円が売却額と想定される。
2024年3月に、大株主である電通は、社外取締役の朝倉氏について、翌日に控えた株主総会で再任を否決する意向を通達した。これを受けて、朝倉社外取締役は「一身上の都合」により取締役を退任した。
一方、2024年3月の株主総会において、電通・執行役員(メディア・コンテンツ担当)である北原氏が取締役として新たに選任された。北原氏はセプテーニHDにおいて、電通在籍者を兼務する初の人物となった。すなわち、電通の意向による取締役の派遣と推定される。
したがって、セプテーニHDの親会社である電通は、北原氏の取締役選任によって、セプテーニHDに対する経営支配を強める道を選択したと推定される。その手段の一つが取締役の減員であり、電通の利害と一致しない「朝倉氏」をターゲットに選定したと推定される。
一説には、電通は朝倉氏が運営するファンドとセプテーニの取引関係を問題視し、再任否決の根拠にしたとされる。ただし、朝倉氏の再任否決について、電通は株主総会の前日に通知したと言われており、それまでの間は、朝倉氏の否認を示唆するコミュニケーションは無かったとされる。すなわち、取引上の問題は、時系列上において唐突な指摘であるため、表面上の理由かもしれない。
したがって、朝倉氏「のみ」が解任対象となった真の理由は、何らかの事情で、電通に対する心象を損ねた可能性も考えられる。
2023年を通じて投資ファンドのオアシスは、セプテーニの経営陣と接触を図っていたと推定される。この中で、オアシスはセプテーニの企業価値が低い問題を指摘し、赤字を垂れ流していた「コミックスマート」の撤退について提言したとされる(2024/3/1ダイヤモンド)。
一方、セプテーニは、2018年の電通からの資金調達時に、15億円をコミック関連の投資費用として使途を計画しており、実質的に電通が資金投下した事業であった。このことを勘案すると、オアシスの立場は「コミックスマートからの撤退」の一方、電通は「コミックスマートへの存続」であった可能性がある。
すなわち、セプテーニの取締役会としては、投資ファンドのオアシス or 筆頭株主の電通という、潜在的な株主を含めた2者間において、どちらの言い分を呑むべきかを判断する必要に迫られたと推定される。これは、親子上場という形態において、少数株主の利益をどこまで取締役会が考慮できるかという「試金石」であったと思われる。
2023年12月にセプテーニは、コミックスマートからの撤退を決定した。仮にこの撤退事案が朝倉氏の発案によって議案にあがり、佐藤社長による意思決定によって撤退が遂行されたとすれば、実質的に電通が投資した事業からの撤退を意味するため、筆頭株主である電通の心象を損ねる理由になるかもしれない。
ちなみに不思議なことだが、コミックスマートの撤退決定後に、佐藤社長の経費の不適切利用が浮上している。偶然にも、コミックスマートからの撤退を提言・遂行したと思われる張本人が、相次いで退任する形となった。
この結果、セプテーニHDとしては当初の予定から社外取締役が1名減員され、当初予定の9名の取締役選任から8名の選任へと変更した。その後、株主総会を経て、8名の取締役の新任が決定された。可決の賛成比率はいずれの候補者も98%以上であり、大きな混乱は見られなかった。
一連のプロセスを通じて、セプテーニHDは、指名・報酬委員会を設置しながらも、親子上場という資本関係のもとで、子会社であるセプテーニHDには、50%超を握る筆頭株主の一存によって、社外取締役であっても異動(クビ)があり得る会社であること、すなわち最高意思決定機関が「株主総会」にあることを内外に知らしめた。
2024年1月にセプテーニは主要株主の異動を発表し、Oasis Management Company Ltd.がセプテーニHDの株式10%を保有したことを明らかにした。この結果、セプテーニHDは、2023年12月時点で電通が52.56%を保有し、Oasisが第2位の株主となった。
親子上場(過半数を握る株主が存在する)という特殊な状況において、ガバナンスがどこまで有効なのかを如実に示した事例。
最後は「資本の論理」が通ったが、取締役会としては少数株主に寄り添った運営をしていたことが「行間」から漂う。短期的には筆頭株主の勝利に終わってしまったが、その結果として筆頭株主の本質(閉鎖性)を浮き彫りにした事案とも言える。