Adobeの創業者はDr. John E. Warnock(ジョン E. ワーノック・1940年生〜)とCharles Geschke(1939年生〜2021年没)の2名である。ともにゼロックスに勤務していた同僚であり、Jhon Warnockは数学者でもあった。
1980年代を通じてパソコンが普及すると、出力装置としてプリンター(印刷)の需要が増加。出版印刷業におけるパソコンの普及をチャンスと捉えて、アドビを起業したという。
創業期は企業向けの複写サービスで日銭を稼ぎつつ、プリンター向けのフォントの開発に従事した。印刷時の拡大縮小に耐えるフォントを作るには、数学的なアプローチが必要であり、共同創業者の知見が生かされた。
プリンター向けのフォントにおける競合は、競争創業者の出身会社であるゼロックスであった。しかし、ゼロックスはワークステーションと一体化したフォント(ページ記述言語)「Interpress」を開発しており、パソコンという新しい端末への対応に遅れた。このため、パソコン向けに焦点を合わせたアドビがフォントの開発競争で優位に立った。
アップルの創業者スティーブ・ジョブズが、設立1年目のアドビのポテンシャルを見出して取引を投資した。ジョブズはアドビを買収することを目論んだが、共同創業者が断ったため出資するにとどまった。
アドビが開発したプリンター向けフォント「PostScript」がAppleの専用プリンター「LaserWriter」に採用された。アドビはAppleという大口顧客を得たことで業績を急拡大した。1986年時点でApple向けの売上高は84%を占め、急成長の反面、Appleへの売上依存というリスクを抱えた
NAASDAQに株式上場。IPOの立役者は日系人でアドビの最高財務責任者であったBruno Nakano氏である。
PostScriptに次ぐ製品として、1987年3月1日にIllustratorを発売。パソコンで印刷物のレイアウトを構成できるソフトウェアであった。パッケージ販売で価格は495ドル。当初は白黒のデザインのみ対応。
共同創業者のJhon Warnockの妻がグラフィックアーティストであったことがヒントになった。Warnock氏の妻は定規やナイフで仕事をこなしていたが、コンピュータでデザインが実現できると考え、当時としては画期的な印刷物をパソコンで描画できるソフトウェアIllustratorを開発した。
1987年に発売されたイラストレータは、グラフィックデザインの現場からナイフと定規を追放し、パソコンでデザインができる時代を先取りした。この結果、デザイナーからIllustratorは圧倒的な支持を集め、アドビはプリンタ向け言語のPostScriptというBtoB向け製品に加え、IllustratorというBtoC向けの強力な商品をラインナップに加えた。アドビの売上高は1989年に1億ドルを突破する。
AppleはMicrosoftとの共同開発で、アドビが独占するフォントの共同開発を発表。AppleはAdobeの株式を20%を売却した上で宣戦布告するなど、Appleとアドビの蜜月関係に終止符が打たれた。
もともとPhotoShopは1987年にThomas Knollという、アドビとは関係のない個人プロジェクトによって創られた。その後、ThomasがPhotoShopを売り込むために会社巡りをする中で、アドビのWarnockが興味を示してライセンスの取得を決めた。ただし当初は写真画像の編集市場は小さいと見積もられ、PhotoShopはアドビで期待された事業ではなかった。
アドビの予想に反して、PhotoShopは瞬く間に市場を席巻した。1990年にMacintoch向けのPhotoShop1.0が発売される徐々に口コミでデザイナーの間で広がり、1991年3QにPhotoShopがIllustratorを売上面で凌駕し、アドビの主力製品に育った。このため、アドビ副社長は「神よ、PhotoShopをありがとう」と口にしていたという。
PhotoShopの好調を受けて、1995年にアドビは開発者のThomas Knollからライセンス契約を狩猟して、買収することを決めた。買収価格は3450万ドルであり、Thomas Knollは莫大な売却利を獲得する
パソコンにおける文章の共有を目的とした汎用フォーマットとしてPDFを開発。1990年代のPDFは有償利用であり普及しなかったが、2000年にAcrobat Readerの無償提供に方針転換して市場を掌握した。
Adobeの成長はDTP(出版業)に支えられていたが、1990年代を通じて競争が激化。増収の一方で利益率が低迷。1998年の減収決算を受けて350名のレイオフを決定した
2000年にBruce ChizenがアドビのCEOに就任し、共同創業者と交代した。Bruce Chizen CEOは2000年から2007年までCEOを歴任。主な仕事として、Flashの技術を持つMacromedia社の買収(2005年)を決断し、インターネット領域におけるAdobeの主力事業の拡大を目論んだ。
2000年に共同創業者の一人であるChuck Geschleが、60歳に近くなったためにアドビを退社した。Geschleはアドビでの経験を振り返って「一番の自慢は、Adobeが印刷と出版の業界を職人技からデジタルへ移行させたことだね」と語っている。
2000年に共同創業者のもう一人、Jhon WarnockがCTOを退任してアドビから創業者が去る。創業時を振り返って、Warnockは「20年前に、Adobeが出版業界に重要な影響をもたらすと言われても、とても信じられなかったろう」と回想した。
Macromediaは、長年アドビと各製品で競合しており訴訟合戦を繰り広げてきた競合会社。買収によって競争に終止符を打つとともに、Macromediaが保有するFlash(webブラウザにおける動画)の技術を取得した。
S.Narayen(45歳)がアドビのCEOに就任。元Apple出身。Adobeにとって驚異であるMicrosoftとAppleへの対応が経営課題であった
webアクセスの解析サービスを展開するOmniture, Inc.(Nasdaq:OMTR)をTOBにより買収。web広告の費用対効果を算定するマーケティングツールの領域に新規参入した。また、アドビとして、SaaSへの知見を蓄積する買収となり、アドビ製品のSaaSへの転換(2013年・AdobeCreativeCloud発表)の布石となる。
AppleがFlash(動画の再生ソフト)への対応を拒絶し、iPhoneに搭載されるデフォルトのスマホブラウザ(Safari)がFlash非対応となる。AdobeはFlashを実質的に諦める形になり、Macromedia社の買収目的を達成できなくなった
法人向けの顧客管理ツールを提供するMarketo社(PEファンドVistaが株式保有)の買収を決定。販促を行いたい企業向けに、web広告の出稿、メール送信、webページのパーソナライズ(キャンペーン展開)、コンバージョン解析といったサービスを提供した。
webデザインを支援するツールとして、Adobeは「Adobe XD」を展開していたが、2010年代を通じてFigma(2012年創業)が競合として台頭した。AdobeXDは有料課金でwebデザインに特化したデスクトップアプリケーションであったのに対して、Figmaはブラウザ上で機能するwebサービスとして展開。Figmaはインストール不要という使い勝手の良さから徐々に支持され、2020年代にはXDを脅かすほどに成長した。
アドビはFigmaに対抗するのではなく、Figmaの買収によってUX/UIのデザインツールを強化する道を選択した。買収価格は2.9兆円と巨額であったが、アドビは月額利用のIllustratorやPhotoShopなどの高収益な事業が好調であり、これらの収益がFigma買収の原資となった。