三井物産に勤務していた寺田親弘氏が起業家への転身を決め、2007年に三三株式会社を設立した。寺田氏の親が会社経営をしており、寺田市も三井物産入社時から将来の起業を考えていたという。
起業時点で名刺のデジタル化(資産化)のビジネスアイデアを持っており、「さん付け」を意味する商号を採用した。
名刺管理に着眼した最初の理由は、これが自分自身の課題だったからです。名刺管理費あ古くて新しい課題です。大量の名刺から目的の名刺を探し出すのに時間を奪われ、困っていました。これに社内の人脈が共有されていない状態もなんとかしたいと思っていました。ある会社の担当者に連絡を取るため、代表電話にかけたら断られる。ようやく担当者に繋がったら、実は社内の後ろの席にいる人と知り合いだったということがありました。こうした課題は、名刺をインターネット上でデータベース化する仕組みがあれば解決します。
創業直後に、インキュベイトファンドの赤浦徹氏がSansanに対してシード投資を実施。寺田氏はVCからの調達を考えていなかったが、イベントで知り合った赤浦氏が即断即決で投資を決めたこと、赤浦氏がサイボウズの上場で投資家としてのトラッキングレコードがあったことを評価し、投資の受け入れを決めたという。
赤浦氏は、創業期のSansanの事業に関与し、現実に即した形での経営計画の修正提言や、営業活動(初期顧客100社のうち、30〜40社を赤浦氏が成約)を手伝っていた。
なお、2009年6月には、サイバーエージェント、GMO、リクルートの3社(いずれもグループ内の投資会社)から総額5000万円の資金調達を実施した。
まあでも出会った瞬間に「出資します」っていう時点で、そんな人は信じちゃいけない話じゃないですか。「そんなのあるかよ」と思いますし、当時は別にベンチャーキャピタルでお金を集めようと思っていたわけじゃなかったんです。でも、電話連絡をいただいたりしてから、ちょっと調べられるじゃないですか。そうすると赤浦さんがサイボウズに出資して上場まで支援した投資家だと分かった。それならすごそうだなと思ったんです。確かにサイボウズの松山って角部屋みたいな会議室で「何をやるんですか?」っていう話をして「名刺のデータ化をするんです」と言ったら、「そういう地味なのを支援したいんだ」と赤浦さんが言ってですね。「ホントに出資します」と言われて、「どこまでこの人は本気なのかな」と思った記憶があります。
Sansanの創業期において、CEO(寺田氏)とCOO(富岡氏)の役員報酬は0円。社員3名は月給15万円を設定した。
アナログが主流だった名刺交換の慣行に対して、デジタルによる名刺管理を行い、名刺情報を営業活動や人脈共有として活用できるサービスを構想した。Sanasnは名刺の読み込み機器・管理ソフトウェアを提供するとともに、人力による名刺情報の入力を請け負うことで、名刺のデジタル化サービスを提供した。
| 順序 | 作業 | 備考 |
| 1 | 名刺読み込み | |
| 2 | 背景分割 | 文字情報以外のノイズ除去 |
| 3 | 画像補正 | 凹凸修正か? |
| 4 | 項目分割 | 名前・会社名・肩書などに分割 |
| 5 | 個人情報対策 | 名前・電話・メールなどを分割 |
| 6 | 入力作業 | 作業者が項目入力 |
| 7 | 統合 | 情報を統合 |
| 8 | チェック | 品質検査 |
Sansanでは、スキャン情報と手入力を組み合わせて名刺をデータベース化しています。人の手による入力という発想に至ったのは、自分が抱えていた課題の解決や、思い描いた顧客勝ちを提供するサービスを実現するには、そうせざるを得なかったからです。スキャナーなどで取り込んだ名刺のデータは、氏名や住所、電話番号、メールアドレスなどに振り分け、個人情報を特定できない状態にします。その上で複数のオペレーターが二重三重に手作業で入力します。これにより、ほぼ100%の入力精度を達成しました。
例えば、OCR(光学式読み取り装置)の文字認識精度が90%だったとしても、10%は間違っていることになります。それによってメールが届かなかったり、電話番号や名前が違っていたりすれば、それはビジネスで使えるデータベースとは言えません。
人が入力せざるを得ないことがわかったとき、「だから世の中に自分が求めるサービスが無かったのか」と腑に落ちました。ITと人力の組み合わせは手間がかかるため、誰もやろうとしなかったのです。
ビジネスSNSとして発展させることを目指し「初期費用0円+月額10万円(最小構成)〜」による値付けを行なった。2007年の時点でSansanは「SaaS」という言葉を用いて、月額課金を志向した。
創業から3年間は、寺田CEOが法人顧客獲得のために営業活動に奔走。1日8件のアポイントメントを取ることを目標に据えた。
サービスの提供開始から約1年が経過した2008年10月には、導入数100社を突破してユーザーを獲得した。
2009年3月には国内で開催された起業コンペ「Tech Venture 2009」で審査員特別賞と準グランプリ(ただしSansanを含めた4社同時受賞)を獲得し、ベンチャー投資家から注目を集め、2009年9月の第三者割当増資(5000万円の調達)に至っている。
なお、Tech Venture 2009におけるファイナリストにノミネードされた15社のうち、2023年7月時点で時価総額が最も高い会社はSansanであった(受けたアワードと時価総額の相関なし)。
| 企業名 | 受賞 | IPO結果 | 時価総額 |
| lang-8 | グランプリ | - | - |
| Sansan | 準グランプリ | 2018年 | 2006億円 |
| サイジニア | 準グランプリ | 2014年 | 61億円 |
| 芸者東京 | 準グランプリ | - | - |
| フィルモア・アドバイザリー | 準グランプリ | - | - |
| gumi | 受賞なし | 2014年 | 278億円 |
| アトランティス | 受賞なし | - | - |
| CLON Lab | 受賞なし | - | - |
| サンゼロミニッツ | 受賞なし | - | - |
| ストリートメディア | 受賞なし | - | - |
| ブランドダイアログ | 受賞なし | - | - |
| マッシュマトリックス | 受賞なし | - | - |
| ユーザーローカル | 受賞なし | 2017年 | 395億円 |
| リブセンス | 受賞なし | 2012年 | 76億円 |
| LoiLo | 受賞なし | - | - |
Sansanの月額利用のコストが高かったこともあり、当初予定していた3年後売上高30億円は未達。実際にSansanが売上高30億円を突破したのは、2016年(創業9年目)であり、計画を下方修正する形となった。
また、2009年にはリーマンショックによる不況で法人顧客の開拓に苦戦したため、Sansanは資金ショート(債務超過と推察される)した。ただし、緊急の第三者割当増資の実施により、会社倒産を回避している。
リーマンショックによる不況で法人顧客の開拓で苦戦。Sansanは資金ショートし、給料の支払いが危ぶまれる状況に陥った(債務超過状態に陥ったと推定される)。会社側は資金繰りが苦しくなった時点で、その事実を株主に開示しなかった疑いがある。
法人存続のために、株主の赤浦氏が第三者割当先を開拓。2009年にサイバーエージェントやGMOなどから5000万円の調達を実施して、財務状況を改善した。
でも実はですね、Sansanは1度、お金がショートしているんです。ショートしそうだったときに言ってくれないからショートした。
Sansanは徐々に普及したが、データベース設計において名刺の名寄せが考慮されておらず「一人の人物に対して、複数の名刺データが存在するが、紐付けがなされていない」状況となり、テーブル設計の欠陥が露呈した。
そこで、従来は名刺の読み取りの度にUserデータを生成していた方針を転換し「人物を主体としたデータベース設計」に移行する。この結果、競合製品との差別化(競合は名寄せに問題があるテーブル設計を採用)を果たし、Sansanが名刺管理市場でシェアを獲得する原動力となった。
この後Sansanによく似たサービスが市場に出てきたが、データ管理の中心にあったのは名刺で、人物ではなかった。結果的に、この判断が競合製品との差別化につながった
Sansanは企業向けのプロダクトであったが、ビジネスパーソンが個人で名刺を管理できる「Eight」の提供を開始。なお、プロダクト技術には、当時、webフレームワークの主流になりつつあったRuby on Railsが採用された。
マネタイズの観点では、ビジネスパーソン向けのSNS「LinkedIn」をよく研究しています。協業できる部分があれば一緒にやりたいですね。2〜3年後には上場も視野に入れています。米Facebookや米Twitterは、一つのサービスで世界に出て成功しています。もちろん、我々も名刺管理一本で世界に出ていきます。
名刺入力は、海外やクラウドソーシングを活用していたが、入力コスト低減のためにオペレーションの改善チームを発足
それから僕らの場合は、いわゆるテクノロジーだけじゃなくて名刺を手で入力をするというのがあって、これ、ものすごく大変なんですよ。もう本当に大変。4年ぐらい前までは、「ヤバい、大洪水だ」ということがあると、夜中にみんなで手作業で入力するぐらいの感じでした。名刺の入ってくる流量に対して処理できないとか、コスト爆発みたいなこととか、そういうものに対処していくのは大変でした。今でいうチャーンレートもね、「名刺をスキャンしたらデータ化してPCと携帯で見れるんですよ、便利でしょ」と言って導入してもらっても、「そんなデータ、これじゃ誰も使わんでしょ」とか言われたりね。
いろいろな会社に行って「名刺を出してください」って言って、机の引き出し開けて勝手にスキャンするとかね。毎日10時間スキャンするとかしていましたからね、僕ら。とにかくどうやって使ってもらうかを含めて、毎日まいにち全部に必死でした。
優先株式の発行による第三者割での資金調達を志向。上場までにB種〜E種までの株式を発行
Sansanの認知度を拡大するために、テレビCMの放送を開始。当時はBtoB商材のテレビCMは珍しかったため、この分野の先駆者であるOBC(会計ソフト)を参考に投資を決定した。資金調達額の大半を広告宣伝費として投下
OBCに行って聞いたら、使っている金額がヒト桁億円だったんですよね。「その金額に対してあれだけインパクトがあるのか」と思って、やりようがあるんだろうなと思いました。クリエイティブがキーだろうな、とかいろいろ考えたりね。当時はSaaSのマトリクスなんて概念がなかったんですね。それこそ「売り上げいくらです」って言ったら、SIの売り上げと比較されちゃうぐらいの時代ですから。そこの違いも誰も分かっていないっていう時代でした。でも、こっちは自分たちである程度わかっていて、手元のチャーンレートと単価、それに対する粗利、それからライフタイムバリューを考えたら、このぐらい取れるんだな、そうしたらCMに5億円を使ったとしても、200件の新規顧客が取れれば元が取れるじゃんって。どう考えても200件取れるよねと。
スピーチやIR(決算説明会)を書き起こしてwebに公開するサービスを展開するログミーの買収を決定。同社の株式70.1%を取得しており、取得原価は非開示。
ログミー社の官報によれば、2020年7月時点で総資産9900万円に対して、年間当期純損失1423万円、自己資本比率15%(純資産1293万円)であり、赤字が続けば翌2021年までに財債務超過に陥る状況であったと推定される。
なお、買収前後でSansanの無形資産に有意な変動はないため、経営不振のログミーを救済する意図(0円買収の可能性もある)であったと思われる。また、買収によるログミー社から引き継がれた債務の処理状況は不明である。
広告事業の失敗で財務危機に陥っていた上場企業Fringe81(2020/12時点の自己資本比率0.9%)の救済を決定。同社の第三者割当増資による引受を決定し、19億円を投じてFringe81の株式を取得した。なお、投資額が大きいことから、Sansanは日本政策投資銀行(DBJ)と共同で第三者割当増資の引き受けを行うスキームを構築した。
Sansanとしては、Fringe81が注力する非広告事業(unipos)をグループ会社で展開する新規事業として取り込みたい意図があった。
業務資本提携の契約では、Fringe81がUnipos事業を軌道に乗せた時点で、SansanがA種優先株式の取得請求権を行使し、Fringe81を子会社化する条項が付与されており、子会社化後もFringe81を上場維持する記載がされている。つまり、SansanとしてはUniposの事業が軌道に乗った時点で、同社を買収し、親子上場というガバナンス上の欠陥を抱えることを許容している。
信託型SOの納税問題をめぐって、Sansanに在籍中の社員に限り追加納税分の負担をSansanが請け負う方針を決定。4.9億円の支出を計上して、2023年5月期に3.7億円の経常赤字に転落した。