創業から29年。0回の決断
| 期 | 区分 | 売上高 | 利益※ | 利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 2000/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | - | - | - |
| 2001/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | - | - | - |
| 2002/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | - | - | - |
| 2003/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | - | - | - |
| 2004/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | - | - | - |
| 2005/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 0億円 | -0億円 | -48.0% |
| 2006/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 1億円 | 0億円 | 29.7% |
| 2007/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 3億円 | 0億円 | 19.9% |
| 2008/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 6億円 | 1億円 | 26.0% |
| 2009/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 10億円 | 2億円 | 22.0% |
| 2010/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 22億円 | 5億円 | 25.4% |
| 2011/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 32億円 | 8億円 | 25.7% |
| 2012/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 39億円 | 11億円 | 28.4% |
| 2013/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 49億円 | 16億円 | 32.3% |
| 2014/4 | 単体 売上高 / 当期純利益 | 64億円 | 20億円 | 31.4% |
| 2015/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 133億円 | 40億円 | 30.7% |
| 2016/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 168億円 | 9億円 | 5.5% |
| 2017/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 134億円 | 34億円 | 26.0% |
| 2018/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 118億円 | 4億円 | 3.3% |
| 2019/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 117億円 | -9億円 | -8.3% |
| 2020/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 110億円 | 4億円 | 4.2% |
| 2021/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 100億円 | -29億円 | -29.7% |
| 2022/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 90億円 | -34億円 | -38.4% |
| 2023/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 76億円 | -22億円 | -29.3% |
| 2024/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 58億円 | 13億円 | 22.6% |
| 2025/12 | 連結IFRS 営業収益 / (親)当期利益 | 53億円 | 7億円 | 13.8% |
クックパッドは1998年にサービスを開始し、ユーザー投稿型のテキストレシピ検索というカテゴリを日本市場で創出した。利用者が投稿したレシピの蓄積量がそのまま検索精度とSEOの優位性に直結するUGCモデル(ユーザーが投稿して作り上げるコンテンツ)により、2015年には年間売上100億円を突破し、上場来7期連続の増収を達成した。技術面でも最先端だった時代もあり、テックブログの年間投稿数は147件を数え、「Rubyエンジニアにとっての梁山泊」とまで評された。しかし2019年に上場以来初の最終赤字に転落し、2021年以降は3期連続の営業赤字を計上。2023年末には従業員が前年の409名から147名へ半減した。売上100億円から営業赤字27億円へ。この凋落の要因は一つではない。事業の構造的脆弱性、創業者の復権、組織の硬直性――三つの要因が複合的に重なった結果に見える。
第一に、事業モデルそのものの脆弱性がある。クックパッドの参入障壁は数百万件のテキストレシピの蓄積とネットワーク効果にあった。しかしその障壁は、同一フォーマット内でのみ有効だった。2016年にクラシルがプロ監修の短尺動画レシピをスマートフォンに最適化して提供を開始すると、レシピの消費形態は「検索して読む」から「動画で観る」へと急速に変化した。YouTubeの調理動画も台頭し、テキストベースのUGCという形式そのものが時代遅れとなった。クックパッドが20年かけて築いた数百万件のテキストレシピは、動画という異なるフォーマットの前に防御壁として機能しなかった。コンテンツの蓄積量ではなくフォーマットの変化が、プラットフォームの優位性を一瞬で無力化する。これは個別企業の失敗ではなく、UGCプラットフォームに構造的に内在するリスクである。
第二に、経営体制の問題がある。2012年に創業者の佐野氏は社長を退任し、穐田誉輝氏を後任に据えた。穐田体制のもとで売上は100億円を突破し、海外レシピサービスの買収など多角化が進んだ。しかし2016年、議決権43.6%を握る佐野氏は経営方針の対立を理由に穐田社長を取締役会で解任した。大株主である創業者が、業績を伸ばしているプロ経営者を排除するという異例の事態は社内を混乱させた。ひふみ投信は全株式を売却し、CTOの舘野祐一氏も退職。みんなのウェディングとの資本業務提携も解消された。創業者が去ることで統治が安定するのではなく、創業者が残ることで統治が不安定化するという逆説がここにある。上場企業であっても、43%超の議決権を持つ創業者という存在がもたらす因果を、クックパッドは身をもって示した。
第三に、組織における現実直視が遅れた問題がある。有料会員の減少が鮮明になった2018年から、従業員の大幅削減に着手する2022年まで4年を要した。プラットフォーム企業の組織は成長期に急速に膨張するが、縮小は同じ速度では進まない。2022年に40名の希望退職を募集したが販管費の適正化には至らず、翌年には従業員が409名から147名へ激減してなお営業赤字27億円を計上した。収益の変化に対してコスト構造が遅行するこの非対称性は、成長を前提に設計された組織に共通する脆弱性である。事業モデルの陳腐化は外部環境の変化であり、経営体制の混乱は上場という制度を含めた統治構造の欠陥である。クックパッドの栄枯盛衰は、事業・経営者・組織のいずれか一つではなく、3つが連鎖的に崩れたときに、企業がいかに脆いかを示す事例である。