計画策定の背景
帝人は戦後、レーヨンを起点として合成繊維、アラミド繊維、炭素繊維複合材料、ヘルスケアへと事業領域を拡張してきた。各局面における事業選択は、その時点の技術連続性や市場環境に照らせば合理的であり、高機能素材を軸とする企業としての技術基盤を形成してきた。一方で、事業領域の拡大とともに低収益事業を内包したポートフォリオが固定化し、売上規模に対して資本効率が十分に改善しない構造が長期にわたり温存されてきた。
2010年代以降、マテリアル事業における市況悪化や操業トラブル、ヘルスケア事業の構造転換の遅れなどが重なり、収益力とキャッシュ創出力は低下した。過去にも構造改革は断続的に実施されてきたが、個別事業単位での対応にとどまり、事業ポートフォリオ全体を入れ替える水準には至らなかった。こうした反省を踏まえ、帝人は成長戦略を描く前提として、まず収益基盤と資本効率を立て直す必要性を明確に認識し、2024–2025年を構造改革の集中期間と位置づけた中期経営計画を策定した。
経営の基本方針
本中期経営計画では、「収益性改善の完遂による基礎収益力の回復」と「事業ポートフォリオ変革」を経営の両輪と位置づけ、成長のための前提条件を整えることを最優先課題としている。モビリティ、インフラ、ヘルスケアといった注力分野に経営資源を集中する一方で、収益性や成長性が見込めない事業については、縮小、再編、撤退を含む戦略的オプションを検討対象とする姿勢を明確にした。
財務面ではROICを経営管理の中核指標とし、投下資本と利益の対応関係を可視化することで、事業ごとの成立条件を再定義する。事業利益500億円、ROIC4%以上、ROE6%以上の達成を通じて、次期中期経営計画以降の成長投資に耐えうる基礎収益力を回復させることを目的とする。本計画は完成形を示すものではなく、帝人が再び成長軌道に乗るための前段階として、経営の土台を立て直す転換点に位置づけられている。
Author's Questions
これまでの帝人の改革は、なぜ企業価値の改善として積み上がらなかったのか?
これまでの中計では、アラミドや複合材料、ヘルスケアといった事業を次の成長ドライバーと位置づけ、収益化が遅れても次期中計での改善や環境好転を前提に継続投資が選択されてきた。その結果、売上規模や事業領域は拡張したものの、ROICやROEといった指標を通じた企業価値の改善には結びつきにくかった。今回の中計は、こうした過去の意思決定と比較して、企業価値の観点で何を変えようとしているのだろうか。
今回の中期経営計画では、本当に「やり切る」ために判断の前提が切り替わったと言えるのか?
過去の中計では、収益未達が生じた場合でも、市況回復や事業環境改善を前提とした計画修正によって事業継続が選択されてきた。時間を与えることで立て直すという判断が繰り返されてきた中で、今回の中計では同じ対応を取らない前提が置かれているようにも見える。この前提の切り替えは、どの過去の結果や反省を踏まえたものなのか、また途中で後退しない設計になっているのだろうか。
もし今回の中計が想定通りに進まなかった場合、本当にこれまでと違う選択を取れるのか?
過去の意思決定では、事業再定義や体制見直しによって時間を与える選択が繰り返されてきた。今回の中計では、同じ道に戻らないために、どの事業で、どの指標を下回った場合に縮小や撤退といった判断に進むのかが、これまでの中計と比べてどこまで具体化されているのだろうか。