Paidyの歴史

ソーシャルレンディングの老舗だが、BNPLに業態転換
updated: 2022-05-02
2008

エクスチェンジコーポレーションを設立。ソーシャルレンディングに参入。

ゴールドマンサックス出身のカナダ人が創業

#創業経緯

2008年にラッセル・カマー氏により「エクスチェンジコーポレーション(以下、ExCo)」が設立され、ソーシャルレンディングの事業展開を開始した。ExCoの名称は、2018年にPaidyに社名を変更するまで使用された。会社設立時点の資本関係は不明である。

ラッセル・カマー氏は2008年まではゴールドマンサックス証券(東京支店)において、アソシエイトとして債権のトレーディング業務などに従事していた。だが、2008年のリーマンショックによって投資銀行の経営方針が大きく変わり、ラッセル・カマー氏は起業家に転身する道を選択したものと推察される。

会社設立にあたって、日本の金融業界に精通した北海道拓殖銀行出身の大前和徳氏が副社長に就任した。大前氏も小口融資に興味を抱いており、ラッセル・カマー氏と知り合って、ExCoへの参画を決めたという。2013年に大前和徳氏が起業家に転身するまで、創業者のラッセル・カマーは大和氏と苦楽を共にしたという。

また、ラッセル・カマー氏は、会社組織のグローバル化を志向した。もともとカマー氏は、カナダ人の家系に生まれ、シンガポールで育ち、仕事は東京や香港で従事していた経験から、公私ともにグローバルな経験を持っていた。

このため、ExCoでは、社員の採用もグローバルに行っており、2022年の現在におけるPaidyにおいても、英語によるコミュニケーションを基本とし、多国籍なバックグラウンドを持つ社員が多いことが同社の特色となっている。この体制づくりは、2021年にPayPalに買収される際の評価にも、プラスに影響したものと推察される。

個人ローンにおける高金利の是正にチャレンジ

#事業の着眼点

ラッセル・カマー氏の着眼点は、金利のギャップにあった。法人向けではゼロ金利政策によって金利が低下する一方で、個人に貸し出す消費者金融業界ではグレーゾーン金利(年間15%以上)が横行していた。

日本国内ではグレーゾーン金利が問題視されて、2006年の貸金業法の改正によって15%が上限となったが、それまでの業界慣行としては出資法の上限金利29.2%で設定されていた。これはサラリーマン金融における「貸倒リスクが高い」ために正当化された側面もあるが、一方で、消費者金融業界が暴利を享受する原資にもなったため、高金利が社会的な問題となった。

このため、ラッセル・カマー氏は、個人向けの消費者金融(ローン)という領域で、金利を下げることにビジネスチャンスを見出した。

2012年の日経新聞のインタビューにおいて、ラッセル・カマー氏は下記のように語っている。

「AQUSH」のサービス提供を開始。与信はFICOと提携

#サービスリリース

2009年4月にExCoはソーシャルレンディングのサービス「AQUSH(アクシュ)」のサービス提供を開始した。AQUSHの名前の由来は、日本語の「握手」からきており、ExCoのプレスリリースによれば「社会の中で人と人との関わりを通じて、これまでにない自由な投融資や資金調達を可能にする画期的な方法を提供する」ことを目的とした。

AQUSHのの具体的なサービス内容は、ローンを借りたい人と、貸したい人に対して、それぞれを仲介するためのソーシャルレンディングのサービスであったが、参入にあたっては段階を踏んでいる。

ソーシャルレンディングとは、消費者金融を意味することから、日本では金融庁による規制が多い分野であった。このため、ExCoでは日本の金融規制に詳しい大前副社長が中心となって、監督当局からの免許取得(第二種金融商品取引業への登録)や、内部の管理体制の構築を行う必要があった。

次に、2009年4月の時点では「AQUSHトモ」をリリースし、家族や友人間における、個人ローン契約を媒介するサービスを開始。契約書の作成・保管・返済を促すメール送信など、契約締結を中心としたサービスを18,800円で提供した。このサービス提供を通じて、借り手と貸し手が使用するAQUSHの管理画面の開発を進めたものと推察される。

続いて、2009年10月にExCoは、FICO(米・ミネアポリス本社)と提携して信用スコアリング情報を活用する審査体制を構築した。この提携によって与信の体制が整い、第三者間におけるソーシャルレンディングのサービスとして、2009年12月16日より「AQUSH」をスタートした。

なお、AQUSHは、ローンの申し込みに対して、ローン実施の承認率を20%以下に設定することで、貸倒リスクを最小化することを目論んだ。ローンの用途については「自営資金」「教育関連」「車の購入整備」など、貸倒リスクが低い事案について優先的に承認していた可能性が高い。

サービス提供開始から、3ヶ月間で900名が使用を開始するなど、AQUSHの立ち上がりは順調であった。借り手にとっては金利が11.9%と安い点がメリットとなり、貸してにとっては利回り8%を期待できることから、次世代の金融商品として注目を集めた。

ソーシャルレンディングにおいて、AQUSHは後発参入に位置

#競争環境

ExCoのラッセル・カマー氏は、ProsperやZopaといった海外のベンチャー企業がソーシャルレンディングで急成長することを知ってExCoを起業した経緯があった。このため、グローバルな視点では、ExCoのAQUSHは後発参入にあたる。

一方、国内ではmaneo(マネオ)がソーシャルレンディングの最先発企業であり、ExCoのAQUSHは日本でも後発企業となった。2008年にはExCoに加えて、SBIソーシャルレンディングと、クラウドクレジットがそれぞれ創業しており、この分野に着目する起業家や大企業は存在していた。

ただし、アメリカを中心とする海外においてソーシャルレンディングの起業が有象無象に相次ぐ一方で、日本国内では法律の規制が厳しいこともあり、この分野への参入企業は限られたものでもあった。

このため、ExCoのラッセル・カマー氏は、日本市場においては競合相手が少ないことを、一つのメリットとして考えていた。

2011

金利のコスト競争力を持続。500Startupsから資本調達を実施

1年目で申込総額14億円を達成

#売上成長

ExCoはAQUSHを2009年12月にリリースしてから、2010年12月までの約1年間で、申込総額14億円(申込数約3500名)を達成した。申し込みに対する融資の承認率は20%未満なので、実際の融資実行金額は最大2.8億円と推定される。

借り手の視点からすると、AQUSHを利用した際の金利は年間9.16〜11.9%の水準であり、アコムやレイクといった消費者金融における15%という法定金利の上限に比べて安いというメリットが存在した。このため、AQUSHは承認率20%以下という低い水準ではあるものの、信用力の高い借り手からすれば、金利コストの面でAQUSHを選ぶ理由があった。

投資家に対する平均利回りに関しても、7.66%〜8.13%という高い水準を確保しており、リターンの大きい投資商品として注目を集めた。

500Startupsから資本調達

#資金調達

サービス開始1年目は順調に申込者数が成長したことを受けて、2010年11月にExCoは米国のベンチャーキャピタルである「500Startups」から資本調達を実施することを発表した。

500Startupsとしては、すでに米国でもソーシャルレンディングの市場が盛り上がっており、実際にMint.comという同業に投資を実施していたことから、この市場に注目していた。なお、500Startupsは2010年4月に設立されたばかりの、当時はまだ新進気鋭のベンチャーキャピタルであり、極東の日本市場に着目した点で特異であったとも言える。

ExCoへの投資に関しても、500StartupsのCEOであるDave McClure氏が最終判断を下したと推察される。

ソーシャルレンディングへの注目度が高まる

#業界に脚光

2010年から2011年にかけて、日本国内ではmaneo、AQUSHがそれぞれユーザーを獲得する中で「ソーシャルレンディング」という領域に注目が集まった。経済メディアや、全国ネットのTV放送を通じて、ソーシャルレンディングが記事になることも珍しくなく、ExCoの経営陣もメディアのインタビューに答えるようになった。

国内においてソーシャルレンディングの注目度が高い状態は2010年から2012年にかけて続いた。2012年にはラッセル・カマー氏が日経新聞のインタビューに答えている。

[表] AQUSHのKPI推移

時期 登録者数 申込総額 承認率 平均借入額 平均借入金利 平均投資利回り
2009年12月〜2010年3月 880名〜 2億円〜 〜20% 約35万円 11.9% 8.13%
2009年12月〜2010年6月 1500名〜 5.5億円〜 〜20% 約40万円 11.29% 7.51%
2009年12月〜2010年9月 2500名〜 9.0億円〜 〜20% 約44万円 9.05% 7.55%
2009年12月〜2010年12月 3500名〜 14.0億円〜 〜20% 約51万円 9.16% 7.66%
2011年3月末 4573名 17.4億円〜 〜20% 約52万円 9.04% 7.54%
2011年6月末 5205名 20.9億円〜 記載なし 約51万円 9.19% 7.69%
2011年9月末 6915名 24.5億円〜 〜20% 約34万円 8.61% 7.10%
2011年12月末 8013名 29.0億円〜 〜20% 約27万円 11.0% 6.6%
2010年〜2011年 ExCoプレスリリースより
2013

AQUSHの登録者数の成長が鈍化。ローン実行残高でmaneoに劣後

AQUSHの登録者数が鈍化

#成長鈍化

2013年に入るとソーシャルレンディングを取り巻く競争環境が変化した。

特に、優良な借り手が市場に少ないという問題が顕在化した。2010年〜2012年という時期は、リーマンショックの直後であり、そもそも個人に対するローンのニーズが高い状態にあった。このため、ローンの申込者数の母数が多く、確率論として優良な借り手を探すことは可能であった。

2013年にリーマンショックが終わり景気が回復局面に入ると、就業できる優良な借り手は「ローンを組まなくても良い」状態となった。この一方で、ソーシャルレンディング業界では、maneo、ExCo、SBIといった先発企業に加えて、ラッキーインベストメントといった後発企業も参入して競争が激化したため、借りての取り合い状態に陥った。このため、AQUSHの申込数の成長が鈍化するとともに、平均借入金利の提示を9.5%を下回るようになった。

この状況に対して、借り手に対する金利を下げることによって申し込み数を増加させる道もあるが、金利を下げることは貸倒リスクを許容することになるため、容易ではない。このため、AQUSHは「ユーザー数が減少する一方、参入企業が増え、借り手に対する金利の引き下げ競争が激化する」という問題に直面した。

maneo・SBIの台頭による競争激化

#競争激化

2013年の時点で、ソーシャルレンディング業界における貸し出し累計額は、maneoが65億円、SBIソーシャルレンディングが10億円であった。これに対して、AQUSHの貸付累計金額は不明であるが、2012年の開示された29億円に対して承認率最大20%を勘案すると、2011年12月末時点で最低5.6億円〜と考えられ、2013年内の成長を加味してもmaneoの65億円には及ばないと考えられる。

すなわち、ソーシャルレンディングにおける国内の貸付競争という次元では、ExCo(AQUSH)はmaneoに劣後した。

ただし、2018年以降にmaneoは無理な貸付による「貸倒損失」によって集団訴訟に発展し、社長が日比谷公園にて自殺している。また、SBIソーシャルレンディングも同様に、不明瞭な貸付を許容しとして行政指導を受け、2021年5月に廃業した。

このように、maneoとSBIソーシャルレンディングの2社は、2013年時点の貸付競争では結果を出していたものの、貸倒リスクを許容したうえでの数値であり、ビジネスとしては成立し得ないリスクを許容してしまった。AQUSHの視点からすれば、貸倒リスクを許容する2社に対して追随することは、危険であった。

商品ラインナップの拡大

#サービス追加

2013年以降、EXCoは投資商品のラインナップを拡大し、ソーシャルレンディングとは異なる投資商品の販売を開始した。

2013年5月にExCoは「AQUSH保証会社不動産担保ローン」を発売した。借り手に対する融資金額は300万円〜3億円、契約金利は年間5.5%〜、担保不要という内容であり、投資家に対する利回りは4.0%を想定した。

2013年10月には「AQUSH ecoエネルギーファンド」を予定利回り5.0%で販売を開始するなど、ソーシャルレンディングの範疇を超えるようになった。

ExCoが純粋な「個人向けローン」以外の商品を発売した背景は、ソーシャルレンディングによる個人への貸付の競争が激化し、投資家に対して利回りの高い魅力的な商品が開発できなくなったためと推察される。

ソーシャルレンディングの市場低迷

#市場低迷

グローバルな観点では、2014年にソーシャルレンディングの急成長企業であったLendingClub社(サンフランシスコ本社)が株式上場を果たし、時価総額が10兆円を超えたことで注目を集めた。

しかし、LendingClub社の時価総額は上場以来右肩下がりとなり、2022年時点では14億ドル(=約1600億円)という水準まで落ちてしまった。2016年には同社のCEOが、投資商品の販売における不祥事で辞任するなど、社会的な信頼を失っている。

このように、ソーシャルレンディングは2010年代後半を通じて、グローバルで市場が盛り下がっていた。この背景は「用途を指定しない融資に対する危険性」が認知され、ソーシャルレンディングに変わるローンや投資方法が注目されたことにある。

2015年以降に注目された個人間の融資・投資のサービスは、プロジェクトに対する投資・融資を行うクラウドファンディングという形態や、大学の在学生と卒業生によって信頼を担保するSoFi社など、与信や融資に特色を持つファイナンス企業が台頭した。

このため、ソーシャルレンディングという「資金用途を指定できず、与信にも特色を持たせられない」サービスは、貸倒リスクの増大という宿命に抗うことができないことが露呈し、市場として注目されなくなっていった。

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yusugiura
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ソーシャルレンディングを見限ったPaidyの凄み

主観的な印象論ではあるが、日本国内におけるソーシャルレンディングの系譜は、2010年代後半からはクラウドファウンディングという形態に引き継がれたと感じている。

ソーシャルレンディングが資金用途を確定できない限界があり、生活費にも補填される結果として、貸倒比率が高くなるという構造的な問題を抱えていた。これに対して、クラウドファウンディングは「特定のプロジェクトを実行する主体」に対するCtoCファイナンスであり、生活費に補填されないことによる貸倒率の抑制と、プロジェクト失敗による貸倒時の投資家に対する納得感が付与される点で、貸し手・借り手に対して「失敗時の納得感が強い」サービス設計であると言える。

個人間ファイナンスの業界では、貸倒リスクを債権者に納得させる仕組み(=リスクの高い資金用途に対する十分な事前説明)か、貸倒リスクを最小化する仕組み(=データ活用による与信精度向上 or 資金用途の限定 or 第一抵当権の設定)のいずれかにしか、生き残れる道はない。この制約を無視して無理に貸し出すと、莫大な貸倒損失を計上して、簡単に債務超過に陥ってしまう。

したがって、2014年にExCo(Paidy)がソーシャルレンディングのAQUSHを見限って、比較的貸倒リスクの低い「後払い市場」のPaidyに事業転換したことは、特異な選択であったと言える。BNPLの本質は「資金用途を商品購入に限定できる」ことで、用途限定によって貸倒リスクをある程度コントロールできることにある。Paidyがソーシャルレンディングを見限った決断は、最良の判断だったと言えるだろう。

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2014

Paidyをリリース。後払い(BNPL)に新規参入して業態転換

AQUSHからPaidyに業態転換

#リリース

2014年10月にExCo(ラッセル・カマー社長)は、祖業であるソーシャルレンディング「AQUSH」から事業の方向性を大きく変え、後払い(Buy Now, Pay Later。以下、BNPL)に注力する方針を決めて「Paidy」のサービス提供を開始した。

なお、2018年にExCoは社名をPaidyに変更して、ソーシャルレンディング事業(AQUSH)から完全撤退している。よって、ExCoの社名表記は、以下、Paidyとする。

ラッセル・カマー氏は、日本国内においてクレジットカードを作成するのに苦労した原体験から、クレジットカードが不要でもECサイトで決済として使えるBNPLに着目したという。当時のBNPLはコンビニ決済や銀行振込によって決済をするのが一般的で、クレジットカードを保有できないユーザーにとって利便性の高い決済手段であった。

リリース当時のPaidyの特色は、(1)一括から36回分割払いを選択できる点、(2)使用金額の一律上限がない点、(3)取引毎ではなく月1回にまとめて支払いが可能な点、(4)スマートフォンの保持を前提とした点にある。

なお、従来のAQUSHとは大きく異なるビジネスであることから、Paidyの開発は外部には極秘で進められ、リリースと同時に世の中に公表された。

スマホを前提としたBNPLを着想

#競争環境

Paidyの狙いは、日本国内でスマートフォンが普及する中で、BNPLのユーザーも「スマホにシフトするだろう」という見立てであった。

BNPLの競争市場において、国内では「ネットプロテクションズ」が先発企業として存在していたが、同社は「PCサイト+請求書の書面発行」という仕組みを前提としており、スマホ時代に最適化されたBNPLではなかった。また、ネットプロテクションズは「取引単位」の後払いであり、ユーザー登録や識別を前提としたID決済でもなかった。

よって、Paidyは「スマホ」での利用を前提としたBNPLの仕組みを作ることで、後発企業として優位に立つことを目論んだと推察される。

新株予約権付社債による資金調達を実施(筆者推察)

#資金調達

PaidyはAQUSHからPaidyへの業態転換にあたって、Paidyのリリースと同時に3.3億円の資金調達を実施した。Arbor Venturesやサイバーエージェントキャピタル、500Startupsなどが投資を行なった。評価額は不明である。

Paidyの事業展開について、投資家は「スマホを前提としたBNPL」であることを高く評価した。

注目すべきは、AQUSH時代からの投資家である500Startupsが、Paidyに対しても引き続き追加投資を行なったことである。このことは、AQUSHやPaidyといったビジネスモデルもさることながら、ベンチャーキャピタルによるラッセル・カマー氏への信頼が、あつかったことが推察できる。

ただし、3.3億円の資金調達は「純資産(資本金・資本準備金)」への繰入れではなく、新株予約権付きの転換社債であったと推察される。2014年末に公表されたPaidyの決算公告では、調達した資金は「負債の部」における「匿名組合出資金」として計上されている。すなわち、将来の株式転換を見据えた「負債」調達を行なったと思われる。

おそらく、投資家としては「AQUSH」というリスキーな事業がクロージングできていない中で、「Paidy」という貸倒リスクを伴うビジネスを行うことに対して、リスクがあると評価したと思われる。このため、優先株式ではなく、経営破綻時に「債権回収」が可能な社債型の資金供与を行うことで、Paidyの経営が行き詰まった場合でも債権回収の実行可能性を高める狙いがあったと推察される。

SMS認証のリリース

#機能開発

2014年7月のPaidyのリリース時点では、認証方法は「メールアドレス+名前」と公表されており、脆弱性リスクが高い(というよりも脆弱性しかない)スタートであったと推察される。流石にまずいとわかったのか、2015年6月までの間に認証方法は「メールアドレス+携帯の電話番号」と公表され、SMS認証が採用されたと思われる。

SMS認証は、ログイン時のパスワードが不要であり、クレジットカードの番号(12桁の数字+3桁の数字=CVC)の入力が不要であることから、ユーザーの認証におけるユーザビリティーを大きく改善する方式であった。一般的なSMS認証のシーケンス図は、下記の通りである(Twillioを活用した例で、推察を含む)。

ただし、SMS認証の実施には「スマートフォン」の保持が必須であるため、2015年時点でスマートフォンを保有しているユーザーしか使用できないというデメリットは存在していた。このことから、スマートフォンを保有しているがクレジットカードを保有してない若年層を中心に、Paidyの利用者が広まっていった。

与信は信用情報会社のデータを活用

#機能開発

2014年7月時点で、Paidyは即時に与信を完了できる体制を整えていた。

リリース時点の与信方法は不明であるが、2019年の時点では、機械学習を活用した与信に加えて、外部の多重債務者情報の提供サービスを活用している。特に、多重債務者の情報に関しては、電話番号から該当者を照合する方法を採用している。

若者向けECサイトを中心に営業開拓

#営業体制

Paidyをビジネスとして成立させるためには、BNPLを導入するECサイトを確保することが欠かせない。この点に関して、Paidyは「ユーザビリティー」を武器に、顧客に訴求する道を選んだ。ECサイトにおいて離脱を防ぐために、Paidyは最小限の画面遷移のデザインを採用することによって、ECサイトに対してコンバージョンの改善というメリットを提供した。

そこで、Paidyは、若者でスマートフォンユーザーが多いECサイトを営業ターゲットに据えて、利用者を伸ばしていったと推察される。

■投資・調達額
調達額
実績 3.3 億円
■シナリオ(推察)
スマホ向けのBNPLサービス「Paidy」の開発
■主な資金の出し手 | 実績
2013
新株予約権付社債?
3.3億円
  • Arbor Ventures
  • サイバーエージェント・ベンチャーズ
  • 合同会社RSPファンド5号
  • 500 Startups(既存投資家)
  • Cherubic Ventures(既存投資家)
?
■推定評価額の計算根拠
・発行済株式数: 株
・取得株式数: 株
・株式の取得比率: NaN%
・取得合計金額: 3.3 億円
推定評価額
-億円

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yusugiura
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Paidyの提供価値は「購入体験の向上」をテクノロジーで具現化すること

Paidyを単なる「後払い会社」や「BNPL」と捉えると、見誤ることになる。後払いという金融の仕組みを抽象化すると、昭和時代の月賦、昭和時代のクレジット、平成時代の消費者金融といったように、それぞれの領域に特色はあるものの、本質的には古くから存在している。BNPLが意識すべき国内の「割賦販売法」の制定は1961年であり、その歴史は古い。その意味で、令和時代に広がりつつある「後払い」や「BNPL」も、その仕組み自体は、決して目新しいものでは無い。

では、何が新しいのかといえば「スマートフォンにおけるユーザー体験を最大化」したことが、Paidyの特異性にあった。従来のネットプロテクションなどのBNPLは「後払い機能」に価値を見出してきたが、Paidyは「購入体験を最良にする」という方針のもとで、電話番号認証(SMS)や請求書発行のアプリ内完結(紙による請求書の根絶)、そして最低限のページ遷移によって、ユーザーにとっての負担を最小限に抑えている。

すなわち、Paidyが提供する本質的な価値は、ECサイトのオーナーに対して、顧客がECサイトからの離脱を最小化するための決済手段として「BNPL」を提供することにある。そして、この実現には高い技術力、UX/UIにおけるデザインの統率力、巨額の資本調達(もしくは自己資本比率面でのリスクテイク)が必要であり、既存企業では対応が難しい面もあり、結果として新興企業のPaidyが台頭する一つの要因になった。

2016

Paidyの口座数が60万を突破。シリーズBで1500万ドルを資本調達

サービス開始2年目で口座数60万を突破

#売上成長

Paidyはサービス開始から2年を経た2016年に60万口座(≒ユーザー)を獲得したことを発表した。主に20〜30代の若年層を中心に、スマホにおけるBNPLの利用が拡大したことが背景にあった。

Paidyが利用できる加盟店についても、若者が消費する「化粧品・健康食品・ファッション」を取り扱うECサイトを中心に導入が進んだ。加盟店におけるPaidyの選択率は20〜30%に及ぶことも珍しくなく、クレジットカードを持たない若年層が「代引き・コンビニ払い」から「BNPL」に決済手段をシフトさせたことが伺える。

シリーズBにて1500万ドル(約16.5億円)を調達

#資金調達

サービスの順調な成長を受けて、Paidyは2016年7月に「第三者割当増資」による1500万ドル(約16億円)の資金調達を発表した。評価額と株式の希薄化率は不明である。

投資家はSBI系のベンチャーキャピタルとEight Roads Ventures Japanの2つの組合をリード投資家として、伊藤忠、Arbor Ventures、SIG Asia Investments, LLLPも出資した。日本国内および海外の投資家を募ることによって、資本のグローバル化を推進した。

なお、2016年7月の第三者割当増資にあたって、リード投資家であるEight Roads Ventures Japanの代表であるデービッド・ミルスタインと、SBIインベストメントの松本祐典氏の2名が、Paidyの役員(役職は不明)に就任した。

Eight Roads Venturesは、日本国内では代引き・コンビニ払いがECにおける決済手段として高い比率で使用されている現状に対して、Paidyがスマホで完結する後払いによって業容を拡大できるチャンスがあると判断し、投資を実施したと推察される。

貸倒引当金の計上を開始。何らかの貸倒損失の発生が濃厚

#貸倒リスク

2016年12月期までのPaidyは貸借対照表において「Paidy債権」を計上していたものの、貸倒引当金を計上していなかった。

これに対して、2017年12月末にはPaidyの貸借対照表において「貸倒引当金」が計上されるようになり、貸倒リスクを財務状況に織り込むようになった。裏を返せばPaidyのサービス利用開始から2年間(2014年〜2016年)は、貸倒引当金を計上しない財務の指針をとっており、この点に関しては違和感を感じる。

なお、2016年12月末時点の「Paidy債権」の総額は9.9億円に対して、貸倒引当金は1.6億円である。すなわち、保有債権に対する貸倒引当金の設定は10%以上という高い水準であり(貸金業者における通常の上限値1.03%を超過)、何らかの重大な「貸倒損失」を織り込んでいたものと推察される。

■投資・調達額
調達額
実績 1500 万ドル
■シナリオ(推察)
財務基盤(純資産)の強化
■主な資金の出し手 | 実績
2016
第三者割当増資
1500万ドル
  • SBIホールディングス
  • SBIインベストメント
  • FinTechファンド
  • Eight Roads Ventures Japan
  • 伊藤忠商事(非リード)
  • Arbor Ventures(非リード)
  • SIG Asia Investments(非リード)
  • その他
?
■推定評価額の計算根拠
・発行済株式数: 株
・取得株式数: 株
・株式の取得比率: NaN%
・取得合計金額: 1500 万ドル
推定評価額
-万ドル

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yusugiura
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BNPLの最重要勘定科目「貸倒引当金」

クレジット会社、消費者金融、BNPLを問わず、これらに従事する会社にとって一番肝となるのが「貸倒引当金」に、いくら計上するのか?という問題である。

BSで貸倒引当金として計上される金額は、対象となる債権の合計金額に対して法定で決められた水準(貸金業者であれば1.03%)ないし、過去の貸倒損失の水準よって決定される。つまり、与信の正確性における競争力(=貸倒損失のリスク)を外部から窺い知る重要な情報になる。

また、貸倒引当金を過小に計上すると、与信に失敗したときに巨額損失を計上することになり、場合によっては債務超過に陥るため、塩梅が難しい。BNPLにおける最重要の勘定科目と言っても差し支えないだろう。

2017

三菱UFJ銀行と業務資本提携を締結し、口座振替機能をリリース

三菱UFJ銀行と業務資本提携。三菱UFJファクターの利用を開始

#業務提携

2017年にPaidy(口座数75万)は三菱UFJ銀行と業務資本提携を締結した。資本面における調達額は非公表であるが、出資比率は5%未満であったとされる。

業務提携の意図は、三菱UFJ銀行の子会社である「三菱UFJファクター」が提供する口座振替サービスとの連携であった。

口座振替機能をリリースし、決済のユーザビリティーを劇的に改善

#機能開発

2017年8月1日にPaidyの支払いを自動的に引き落としできる「口座振替機能」をリリースした。

Paidyのアプリ内で引き落としたい口座(三菱UFJ以外でも可能・ゆうちょ銀行も登録可能)を入力し、三菱UFJファクターが登録された口座への自動引き落とし(口座振替)を実施。回収したお金は、三菱UFJファクターを通じてPaidyの法人口座に入金するという仕組みと推察される。

業務資本提携によるPaidyの狙いは「決済(送金)」におけるユーザビリティーの改善にあった。従来のPaidyでは、購入者の支払い方法としては「コンビニ払い」と「銀行振り込み」の2つに限られていたため、Paidyのユーザーはコンビニないし銀行に出向く必要があり、インターネット上で決済を完結することができなかった。したがって、口座振替機能のリリースによって、購入者は事前に銀行の口座情報を登録することによって、決済をアプリ内で完結させることが可能になり、ユーザビリティーが大幅に改善された。

また、三菱UFJ銀行との提携に伴って、コンビニで支払いの収納代行に関しても、三菱UFJとDeNAの合弁会社である「ペイジェント」が提供するサービスの利用に移行した。

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yusugiura
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BNPLにおけるユーザビリティーのドメイン

一般的なBNPLは「購入」「発送」「請求」「決済(送金)」「回収」といったフローによって成り立っており、これらのフローにおいて、ユーザビリティーを確保しなければならない。

Paidyの場合、2014年のリリース時点で「購入(=SMS認証)・請求(=紙の根絶)」のユーザビリティーは確保していたが、「発送・決済・回収」に課題があったものと推察される。

2017年のPaidyの「口座振替機能」は、このうちの「決済」に関するユーザビリティーを確保する取り組みだったと言える。この実現には金融機関の口座を操作するためのAPI連携が必須であることから、銀行の協力が不可欠であろう。この座組みを実現するために時間を要したことから、2014年のPaidyのリリースから3年を経た2017年に「口座振替機能」をリリースできたのだろう。

なお、Paidyにおいて「発送」ののユーザビリティーは確保されておらず、物流のトレースができないといった課題が残る。2022年時点でも、解決されていない。

また、Paidyにおける「回収」のユーザビリティーは不明である。一般論として、債権回収は泥臭い仕事であるため、外部業者に委託するか、債権の流動化(債権の売却)によって回収の責務をビジネス要件から除外することが考えられる。ただ、Paidyがどちらの方法を採用しているかは、公表されていないし、筆者はそれを試す勇気を持っていない。。。

2017

代表取締役社長に杉江陸が就任。自己資本比率2.6%の危機的状況が課題

代表取締役社長に杉江陸が就任

#代表取締役の異動

創業者であるラッセル・カマー氏は、日本におけるBNPLを推進するために、金融業界に詳しい人物をCOOの候補として採用することを決めた。この過程で、新生フィナンシャル(レイク)の代表取締役であった杉江陸氏と出会い、杉江氏の社長経験を評価し、採用を決定した。

なお、ラッセル・カマーは杉江氏をPaidyの代表取締役社長CEOとして迎え入れて、自らは代表取締役会長(CEOの役職は無し)に就任した。以後、Paidyの経営は、ラッセル・カマー氏と杉江陸氏の2名を代表取締役として執行された。

杉江氏がPaidyに転職した理由は「Paidyという商材がものすごく面白い」(2020社長名鑑)ためであったという。杉江氏は新生フィナンシャルにて貸金業(ブランド名:レイク)を経験しており、一般人を相手にするというPaidyの顧客層と似ている一方で、「スマホを重視してAIを活用する」といったテクノロジーの側面があったことが、Paidyに惹かれていった理由だという。このため、杉江氏は「絶対に世の中を変える」と考えて、Paidyの社長として参画した。

自己資本比率の改善が急務

#経営危機

2017年12月時点のPaidyは、借入金による資金調達を中心として行っていた関係から、自己資本比率が2.6%という低い水準にあり、債務超過寸の財務状況にあった。このため、プロダクトは順調に立ち上がりつつあったが、Paidyが企業として生き残るために「財務リスクをハンドリング」する必要があり、必ずしも経営が順調であったわけではない。

したがって、ラッセル・カマーが社長を退任した理由は、危機的な自己資本比率を改善するためには、貸金業のプロである杉江氏に経営を任せた方が確実であると考えた可能性もある。

2018

Paidyの口座数が140万を突破。シリーズCにて約180億円を調達

若年層を中心にユーザーを獲得。Paidyで140万口座を突破

#売上成長

自己資本比率は危機的な状況の一方で、Paidyは若年層を中心に順調にユーザー数を拡大。2018年には140万口座(ユーザー)を突破し、BNPLの主要プレーヤーへと成長した。

藪内悠貴氏がPaidyのCFOに就任

#役員就任

2017年ごろから杉江社長は、CFOの人材を探しており、投資ファンド(PE)のカーライルに在籍していた藪内悠貴氏にPaidyへの入社を促した。この要請を受けて、2018年に藪内氏はカーライルからPaidyに転職し、PaidyのCFOに就任した。

薮内氏はシリーズC以降のPaidyの資金調達や財務戦略、株式上場準備などに従事し、銀行借入による自己資本コストの改善を試みるなど、Paidyの財務戦略を担う重要な役割を果たした。

約216億円を調達(借入を含む)

#資金調達

2018年にPaidyは大規模な資金調達を3つ実施した。1つ目はシリーズCによる資本調達で、約60億円の調達を実施した。2つ目はシリーズC-Exによる資本調達で約90億円の調達を実施した。3つ目は、ゴールドマンサックスを中心とした金融機関からの銀行借り入れで約66億円を調達した。調達した資金は、財務基盤の改善、オフィス移転、人員採用の積極化にあてたと推察される。

いずれも正確な発行株式数(希薄化率)・評価額については不明であるが、資本調達について杉江社長によれば「評価額は600億円を超えた」(2019/12/16日経産業新聞)と明かしている。

本社を東京ミッドタウンに移転

#本社移転

2019年12月にPadiyは本社を「東京ミッドタウン(東京赤坂)」に移転した。移転費用は非開示のため不明だが、相応に高い賃料の支払いがあると予想され、資金調達によって確保した資金を「賃料および保証金」充当したと推察される。

債権の流動化は実施せず?

#財務戦略

Paidyは、財務戦略において、一貫して「債権の流動化を行なっていない」と推察される。

2018年12月期末の時点で、Paidyは貸借対照表の資産の部において「Paidy債権」及び「Paidy割賦債権」をそれぞれ計上していた。だが、2021年12月期末の時点では、これらの債権は貸借対照表において計上されていない一方、売掛金に相当額が計上されており、勘定科目の使用基準に変更があったと推察される。

すなわち、ユーザーに対する債権は依然としてPaidyのBSに計上されており、債権の流動化は行なっていないと思われる。

[表] Paidyにおける期末時点の貸借対照表の計上金額(百万円)

年度 現預金 売掛金 Paidy債権 Paidy割賦債権 貸倒引当金
2016年12月期 517 0 992 3.9 -166
2017年12月期 634 0 1287 5.9 -275
2018年12月期 3658 9 3011 33 -413
2019年12月期 非開示 非開示 非開示 非開示 非開示
2020年12月期 非開示 非開示 非開示 非開示 非開示
2021年12月期 11220 12009 0 0 -1988
会社法第440条の規定によりPaidyが開示した決算情報より
■投資・調達額
資本調達(シリーズC)
5500万ドルの調達を実施
60.0 億円
資本調達(シリーズC-Ex)
8300万ドルの調達を実施
90.0 億円
借入調達額
66.0 億円
■シナリオ(推察)
「2020年までにPaidyで1100万口座を獲得」と公言
■主な資金の出し手 | 実績
2018/7/12
第三者割当増資
60.0億円
  • 伊藤忠(リード・46億円)
  • ゴールドマンサックス
  • VISA(?)
  • その他
?
■推定評価額の計算根拠
・発行済株式数: 0株
・取得株式数: 0株
・株式の取得比率: NaN%
・取得合計金額: 60 億円
推定評価額
-億円
2019/10/9
銀行借入(ウェアハウス・ファシリティ契約)
57.0億円
  • ゴールドマン・サックス
2019/10/31
銀行借入(当座貸越契約)
9.0億円
  • みずほ銀行
  • 三井住友銀行
  • 三井住友信託銀行
2019/11/1
第三者割当増資
90.0億円
  • PayPal Ventures
  • Soros Capital Management LLC
  • JS Capital Management LLC
  • Tybourne Capital Management Ltd
  • Eight Roads Ventures
  • その他
?
■推定評価額の計算根拠
・発行済株式数: 0株
・取得株式数: 0株
・株式の取得比率: NaN%
・取得合計金額: 90 億円
推定評価額
-億円

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2019

Amazonなど大型加盟店にPaidyを導入

大型加盟店の獲得プロジェクトを遂行(推察)

#営業活動

2017年頃からPaidyは、大型加盟店を獲得するための営業体制を強化してきたと推察される。2017年にPaidyの「営業・マーチャントマーケティング・PR統括」として橋本知周(はしもと・ともひろ)氏が執行役員に就任した。橋本氏は、PayPalや楽天などで、加盟店向けの営業活動にマネージャーとして従事した経験があり、営業のプロであった。

2019年にPaidyはアマゾンジャパン、Qoo10、ビックカメラ、ヤマダ電機など大型加盟店の獲得に相次いで成功した。特に流通総額の大きいアマソンジャパンが加盟店になったことは、Paidyのユーザー数の増大に寄与したものと思われる。

大型加盟店獲得の背景には、橋下氏らの営業チームの貢献があったと推察される。2019年に橋下氏はPaidyの副社長執行役員に昇格しており、加盟店獲得の功績が評価されたものと思われる。

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2020

SMS認証の脆弱性を活用した詐欺が発生

メルカリとPaidyを利用した詐欺の発生

#セキュリティー

2020年1月にPaidyとメルカリを利用した詐欺が発生した。詐欺の仕組みは、Paidyの「本人確認」に関する脆弱性を活用したものであった。2020年3月までに338件の詐欺が発生し、この全てに関してPaidyが債権放棄(損失計上)することを決定した。

詐欺師がメルカリで「商品」を出品し、それを買った購入者が詐欺の被害者となり、詐欺の実現方法としてPaidyが活用された。報道から読み解く限りにおいて、詐欺の仕組みは次の通りである。

本来であれば、Paidyの登録時にSMS認証が必要であるものの、SMSの認証に失敗した場合でもPaidyに登録されてしまい、支払いの催促が入力された住所に送付されてしまう点に問題があったと思われる。Paidyとしては、スマホの電話番号を持たないユーザーの離脱を防止するための意図的な施策として例外的に容認していたものと推察されるが、いずれにせよ「SMS認証が、認証として機能していない」という脆弱性をつかれる形となった。

これを受けて、Paidyは、家電などの高額決済の商品について、一部の加盟店でPaidyの利用を停止した。対処策として、Paidyは高額商品の決済時には、本人確認書類と顔認証を必須にする方針を決め、早急に開発をスタートした。

高額決済時の顔認証機能を緊急リリース

#セキュリティー

2020年4月にPaidyは、家電などの高額商品の購入時には、本人確認書類(免許証のみ対応)および顔写真の認証を必須とする機能変更を実施した。

技術面では、顔認証にはELEMENTS社(久田康弘・社長)が提供するAPIを活用し、Paidyにおける顔認証機能のリリースにかかる実装時間を短縮したと推察される。

免許書を活用した顔認証機能のリリースにより、悪意のあるユーザーが、Paidyを使って高額商品の決済時に詐欺を行うことは難しくなり、Paidyはメルカリを活用した詐欺の緊急対処を一旦終えた。

なお、これらのリリースによって高額商品の購入には「Paidyのアプリ」と「運転免許証」が必須になったことで、実質的に運転免許書を持たないユーザーはPaidyの高額決済を利用できなくなった。この点に関して、杉江社長はユーザーの獲得目標が遅れることを許容し、それよりもリスクを最小化することを優先した。

2020年7月にはマイナンバーカードによる顔認証機能をリリースしたことにより、運転免許書を持たないユーザーでの高額決済が可能になった。ただし、通知カードは顔写真がないため、認証として使用することはできない。

PCI DSSへの準拠

#セキュリティー

2020年10月に「3回後払い機能」をリリースしたことを受けて、同時にPCI DSSへの準拠を発表した。Paidyの社内にはPCI DSSに詳しい人物がおり、このプロジェクトは2020年8月から開始して2ヶ月で完了したという。

Paidyはクレジットカードを扱わないため、PCI DSSに準拠する必要はないが、それでも準拠を獲得した理由は、将来の株式上場を視野に入れた「対外的なアピール」にあったと推察される。特に、2020年1月に発生したPaidyのSMS認証の脆弱性をついた詐欺への対応として、セキュリティーレベルを高めたというメッセージも含まれていたのかもしれない。

ただし、PCI DSSは、あくまでもクレジットカードのデータの取り扱いや、通信の暗号化をメインとしたルールであり、認証方法の脆弱性を診断するものではない。

フィッシング詐欺が相次ぐ

#セキュリティー

Paidyがメジャーな決済手段になる一方で、2021年12月頃からその知名度を利用したフィッシング詐欺が横行するようになった。

これは、悪意のある人物が、ターゲットとなる被害者の電話番号を入手してSMSを送信し、偽のフィッシングサイトに誘導して、個人情報を入力させて、不正に取得するものである。古典的な攻撃方法であるが、この方法を防ぐには、そもそも攻撃者に電話番号を教えない(=流出を防ぐ)ことや、意図しないタイミングでのSMSをユーザーが無視するといった対処策しかない。

SMSが「いかなる電話番号に対してもメッセージを送信できる」という構造を持つ以上、フィッシング対策としてSMSを悪意のあるユーザーに送らせないということが難しく、SMS認証の負の側面と言える。

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2021

シリーズDにて約132億円を調達

推定評価額は1000億円を超えて、ユニコーン企業へ

#資金調達

2021年3月にPaidyはシリーズDによって132億円の資金調達を実施したと発表した。評価額は1000億円以上推定され、ユニコーン企業の誕生として注目を浴びた。

投資家はSoros Capital Management LLCなど、海外の機関投資家が中心であった。

海外の機関投資家が中心になった理由は、日本の年金基金(保険会社の資産運用も含む)の運用方針として、ベンチャー企業に対する投資を行う選択肢がメジャーになっていないという構造的な問題がある。

結果として、ユニコーン企業に対してまとまった資金を提供できるのが、海外の投資家に限られてしまうため、Paidyとしても、資金調達の営業効率化という面から、海外の機関投資家に対して資金を募らざるを得なかった。

■投資・調達額
調達額
1.2億ドルの調達を実施
132 億円
■シナリオ(推察)
Paidyに対する開発・サービスへの投資
■主な資金の出し手 | 実績
2021/3/31
第三者割当増資
132億円
  • Soros Capital Management LLC
  • JS Capital Management LLC
  • Tybourne Capital Management Ltd.
  • Wellington Management
?
■推定評価額の計算根拠
・発行済株式数: 0株
・取得株式数: 0株
・株式の取得比率: NaN%
・取得合計金額: 132 億円
推定評価額
-億円
2021

PayPalがPaidyの株式100%取得。評価額は約3000億円

東証マザーズへ上場審査を申請。ストックオプションの整備も実施

#株式上場

Paidyは、東証への株式上場を目指す一方で、株式売却の可能性を探るデュアルトラック方式を採用した。

2021年4月にPaidyは、東証マザーズに対して上場を申請した。審査における実務面では、藪内悠貴氏(Paidy・CFO)と、主幹事である大和証券が、IPOの準備を進めたと推察される。

なお、株式上場にあたって、従業員に付与するストックオプションの整理には難航したという。外部のストックオプションの設計を行うコンサルティング会社に対して、Paidyは多額の報酬を払いつつ、ストックオプションの整備を進めた。

この経験から、杉江氏は日本のストックオプション制度、特に税制適格ストックオプション(権利確定時のみ税金20%が発生する)を採用した場合に、年間1200万円しか行使できない制限に苦言を呈している。

杉江陸(Paidy代表取締役社長)

ストックオプションのところですけれども、日本のストックオプションは一言で言うと大変使いづらいです。税制適格ストックオプションというものが先ほど紹介されていましたけれども、発行すれば株式売却時にキャピタルゲイン課税20%程度を支払えばいいんですが、その制度設計自体はさほど悪くないと思うんですけれども、いかんせん年間1,200万しか権利行使ができないんですね。1,200万ではほとんどないのと同じ金額で、もしユニコーン企業を量産したいのであれば、これを10倍にするどころか100倍ぐらいにしていただかないと全く使い物にならないというのが実態です。

ほかにもやり方はあるんです。ちょっと詳細は省きますが、有償ストックオプションというものだったりとか信託型ストックオプションだったりというのもあるんですけれども、結局非常に複雑で数社のコンサルティング会社しかサポートいただけるところがなくて、膨大なコンサルティングコストを払わないと発行ができない。我々は結果的にやったんですが、もっと税制適格ストックオプションの要件が緩和されてサイズが大きくなっていけば、同じプログラムを走らせるにしてもみんながハッピーになってコストも下がるということになると思います。

2022/3/9内閣府「総合科学技術・イノベーション会議 第2回イノベーション・エコシステム専門調査会」

PayPalが3000億円でPaidyを完全子会社化

#株式売却

2021年を通じてBNPLへの市場に注目が集まり、海外のグローバル企業がPaidyの企業価値を評価するようになり、2021年8月にアメリカの大手決済企業のPayPalが、買収に関する意向表明書をPaidyに送付した。

これを受けて、Paidyは東証マザーズへの上場ではなく、PayPalへの株式売却を決定。PayPalに3000億円で100%の株式を売却することを決定した。3000億円というバリュエーションは、PayPal以外にもPaidyに興味を示した事業会社があるとされ、これらの競り合いによって価格が高騰したと推察される。

Paidyの大株主は創業者であるラッセル・カマー氏であると推察されることから、株式売却という意思決定は、議決権保有比率の関係上、杉江社長よりはラッセル・カマー氏によってなされたと考えられる。

上場ではなく売却を選択した決め手について、杉江社長は「PayPalからPaidyが独立した状態で経営することを認められたため」としている。このほかにも推察であるが、ラッセル・カマー氏などの大株主にとっては、3000億円というPayPalによる買収価格が、マザーズに上場した場合の評価額(2600億円)よりも高く、経済合理性の観点からPaidyは売却を選択したと思われる。

なお、東証への株式上場をやめることになったため、杉江社長などの上場準備に奔走していたPaidyの社員は大和証券の関係者らに事情を説明。大和証券としては、時価総額1000億円以上が予想されるPaidyの上場(=各種手数料収入の確保)というチャンスを逃してしまい、手痛い失敗となった。

グローバルな組織体制を持続

#組織体系

PayPalが3000億円で買収した要因の1つとして、Paidyのマネジメント層及び従業員が多国籍であったことが挙げられる。組織の多様化は、トップダウンで意図的に推進されており、Paidyは日本国内向けのサービスではあるものの、サービスの運営は東京にて外国籍のエンジニアやマーケティング担当者によって行われた。

外国籍の社員採用について、Paidyは転職エージェントを使用せずに、LinkedInなどを使用したダイレクトリクルーティングや、社員・元社員からのリファラル採用を中心に行ったという。

特にシニア層の採用は大変で、海外のベンチャーキャピタルを介して、候補者を探し出したという。この結果、2022年時点において、Paidyの役員(創業者のラッセル・カマー氏除く)のうち、マーケティング・プロダクトマネージャー・技術の責任者について、それぞれが外国籍の人物が歴任した。

従業員に関しても、全165名のうち71名が日本人であり、残りの過半数が外国籍(32カ国に分散)となり、グローバルな組織を実現している。

杉江陸(Paidy代表取締役社長)

外国人採用の場合の採用のルートなんですけれども、一般的に外国籍社員はエージェントに頼りっぱなしになることが多いと思うんですが、私たちとしてはリンクドインなんかを通じたダイレクトハイアリングだったり、あるいは社員や元社員なんかから見てリファラルを重視しています。半分程度がそういった社員なんですが、基本的にスタートアップの人材は、先ほどJustinも言っていましたけれども、スタートアップのエコシステムの中で世界中を巡っていて、みんなとつながっているんですよね。エクスUberジャパンだったりエクスメルカリ、エクス楽天みたいな人ももちろんいるんですが、どちらかというともうちょっとグローバルな、例えば我々の業界で言うとエクスPayPalだったりとか、あるいは最近で言うとエクスアフターペイみたいな人たちが非常に流れていると。

その中で特にエンジニアに関して言うと、エコシステムの中で一定のブランドといいますか、例えばあの会社は今熱いよねとか、あそこは処遇がいいよね、あそこのチームは愉快なやつらがそろっているよね、みたいな評判を得られれば、ある程度自分でソーシングができるようになってくる。そのためには、意識して受け入れる側としてのチームの組織文化、受容性が高くなきゃいけない。私が先ほど申し上げたコスモポリタンカルチャーと呼んでいますけれども、特定の常識とか偏見、日本では日本の常識とか偏見を共有するチームにするんじゃなくて、前提が全くなしで、個人個人一人一人をリスペクトするようなチームを作っていかないと、こういったダイバーシティは実現できないなというふうに思うんですね

2022/3/9内閣府「総合科学技術・イノベーション会議 第2回イノベーション・エコシステム専門調査会」

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