2006年に博士課程に在籍していたた吉永浩和氏(当時29歳)は「ログリー株式会社」を設立した。吉永氏の親は経営者であり、起業が当たり前という環境で育ったことや、親からの支援(詳細は不明)が会社設立の後押しとなった。
ログリーの社名の由来は、システム開発における「ログ(出力)」に由来しており、創業当時はスケジュールや日記などをカレンダーで管理できる自社サービスを展開した。まだカレンダーが珍しかった時代でもあり、10万ユーザーが使用するサービスに発展したが、マネタイズに失敗して頓挫した。
2006年に博士課程に在籍していたた吉永浩和氏(当時29歳)は「ログリー株式会社」を設立した。吉永氏の親は経営者であり、起業が当たり前という環境で育ったことや、親からの支援(詳細は不明)が会社設立の後押しとなった。
ログリーの社名の由来は、システム開発における「ログ(出力)」に由来しており、創業当時はスケジュールや日記などをカレンダーで管理できる自社サービスを展開した。まだカレンダーが珍しかった時代でもあり、10万ユーザーが使用するサービスに発展したが、マネタイズに失敗して頓挫した。
2009年にログリーは、自然言語処理を用いたレコメンドサービス「newziaコネクト」を開発した。従来のカレンダーサービスに代わるサービスとして、企業が配信するニュースをログとして収集することを狙った。
この技術は、広告出向先の媒体のページの日本語を自動で解析し、想起連想によって各ページをタグ付けすることでカテゴリーを割り振るものであった。このメリットを活かして、メディア企業向けに関連記事を自動化するサービスを提供したという(具体的なサービス内容は不明)。
なお、newziaのリリースと前後して、 ログリーは広告配信システム(DSP)に参入したが、こちらは後発参入ということもあり、事業を撤退している。
2012年10月にログリー(吉永社長)は、スマホ向けのネイティブ広告配信サービス「logly lift」の提供を開始した。当時はスマホの普及黎明期であり、画面の小さいスマホ向けの広告システムは普及途上にあったことから、広告システムに後発参入したログリーでも戦える素地があった。ネイティブ広告に集中するために、DSPから撤退している。
サービス開始当時の「logly lift」の強みは、すでに開発していた自然言語処理「newziaコネクト」との相乗効果にあったと推察される。広告媒体となるページは多岐にわたるため、人手によるカテゴライズが難しい問題があり、これに対して「newziaコネクト」によってカテゴライズを行い、各ページごとに適切な広告を配信できることが「logly lift」の売りであった。
2012年当時において、自然言語処理はそれほど普及していた技術ではなく「logly lift」が顧客に受け入れられる一つの要因になったと推察される。
なお、2018年における主な顧客(売上高10%超)は、株式会社モバイルムーブメント、グループエムジャパン株式会社、合同会社ステージングなどであった。
2017年にAppleがユーザーのプライバシー保護のために、SafariにおけるCookieによるトラッキングを制限したことを皮切りに、webブラウザにおけるプライバシー保護の流れが起こった。2020年にはGooleも、GoogleChromeにおけるCookieの利用を制限する方針を打ち出すなど、Cookieによってユーザーの属性を判定するのが難しい時期に突入した。
Cookieの規制の影響を受けてたのは、web広告をビジネスに据えるログリーのような企業であった。Cookieが利用できない場合、webブラウザにおけるユーザー属性の判定が困難になることから、ネット広告そのものの効率が低下する。この結果、広告主はweb広告への予算を削減するため、結果としてCookieをベースとした広告システムを構築している各社は苦境に陥ることがほぼ確実となっている。
そこで、ログリーでは、広告にできる限り依存しないビジネスモデルを展開するために、2020年以降、企業買収による新規事業の展開を本格化した。
2021年3月にログリーは、HR領域への参入を意図して、moto社を10億円(うちアーンアウト3億円)で買収すると発表した。ログリーとしては業績が低迷する広告に変わる新規事業として、買収を意図したものと推察される。
買収価格7億円に対して、moto社の当期純利益は約5000万円であり、純利益ベースのPERは14倍と推察される。ただし、従業員は0名と推察され、役員報酬がT氏向けに1億円(=費用計上)であることから、粗利は1.5〜2億円と推察され、事業が伸びなくても数年で投資を回収できる案件に見えた可能性もある。
費用構造についても、ブログ自体はwordpressでの構築であり、報酬を除く固定費は「サーバー代」「ドメイン取得の維持費」「画像の利用権」などに限られると推察される。このため、moto社は高収益事業であった。
売上高39億円(FY2020)のログリー社にとって、10億円の買収は巨額費用であっため、買収資金を銀行からの借入によって調達した。
また「のれん償却」は毎年行うこととし、ログリー社は10年で償却する方針を発表したが、監査法人(EY新日本)の指摘により8年に変更されている。なお、2022年にログリーは、費用削減のために監査法人を「EY新日本」から別の監査法人に移動した。
【moto社について】
moto社の主力事業はT氏が個人運営していた「転職アンテナ」というアフィリエイトブログである。2020年3月ごろには、Google検索におけるキーワード「転職 おすすめ」や「転職エージェント」で、表示順位1位を確保するブログであった。2021年初旬でも、検索順位上位であった可能性が高い。
転職アンテナの強みはSEOにおけるビックワードでの順位確保にあったが、それを実現するためにT氏が「Twitter」および「書籍出版」を活用した点がユニークであった。
T氏は、2018年ごろからTwitterを本格化して、自身の転職体験談に基づく名文を繰り出すことによってバズを連発し、2021年3月の時点で12万フォロワーを確保していた。Twitterで培ったフォロワー数を土台として、2018年9月7日に「tenshoku-antenna.com」のドメインを取得して、転職ブログ「転職アンテナ」のサービス提供を開始した。
すなわち、単なるブログではなく、Twitterで集客基盤を先に構築し、その後でブログに誘導した点で、SNS活用のパイオニア的な存在であった。また、「転職」というコンバージョンに対する客単価が高い商材に特化したことや、Googleが検索エンジンおける権威性を重視した潮流(2017年のWELQ問題以降)にも沿っており、これらの追い風に押されて検索順位を上げていったと思われる。
極めつけの一手として、2019年8月にT氏は著書『転職と副業のかけ算』を出版し、紙および電子書籍を合わせて発行部数6万部のベストセラーになった。これによって、T氏は権威性の高い経済メディアからの取材を受けて転職アンテナへの被リンクを獲得し、検索エンジンにおけるE-A-T(権威性)を一層強固にした。当時のブログ記事数は推定約20記事と少ないものの、2020年には「転職 おすすめ」と「転職エージェント」といったキーワードにおいて、大手転職会社のサイトを差し置いて、表示順位1位を確保したと推察される。
この結果、検索流入によるアフィリエイト広告の事業が好調に推移し、moto社は2020年9月期に売上高3億円を突破した。T氏は転職アンテナがSEOに依存するメディアであることを認識し、その基盤を強固にするためにメディア以外の事業への参入により発展させることを意図して、M&A仲介「サイト売買Z」を通じて売却先を探していた。一方、買い手側は別サービス「M&A Cloud」を使用し、同一プラットフォームの利用による利益相反を避けている。
最終的に複数の企業が買収に名乗りを上げ、ログリー社とmoto社が6ヶ月の交渉期間を経てマッチングした。ログリーは、T氏が売却後も代表取締役を継続することを条件に、2021年3月に7億円+アーンアウト3億円でmoto社の株式100%の取得を決定した。一方、moto社の創業者であるT氏はmoto社の株式100%を保有しており、約7億円の収益(税引後利益約5.6億円)の個人収益を確定したと推察される。
2022年3月期にログリーは売上高26.8億円、当期純損失▲6.7億円という厳しい決算を発表した。赤字転落の理由は、主力の広告事業の不振に加えて、買収したmoto社の業績不振を受けて減損損失を計上したことにあった。減損を発表した2022年2月には、ログリーの株価はストップ安となっている。
また、2022年2月の減損後に対処策を講じたものの売上を回復させることができず、2022年5月にログリーは、moto社関連で1.08億円の減損を計上した。moto社関連で、累計7億円の減損となり買収額のほぼ全額を損失計上した。
ログリー社は主力の広告事業がCookie規制のために不振となり、moto社による新規事業も不振になったことで、最後に有利子負債が残る形となった。純利益の低迷によってキャッシュフローが悪化し、ログリーの自己資本比率は2022年3月末時点で24.4%(前年同期53.4%)に低下した。
【moto社における巨額減損の理由】
2021年3月のmoto社の買収後から、転職アンテナは同年11月まではSEOのパフォーマンスが好調だったが、2021年12月ごろからSEOにおけるキーワードの順位が低下。Google検索において「転職 おすすめ」や「転職エージェント」といった主要キーワードで1位を確保できなくなり、結果としてブログ経由のアフィリエイトによる送客が半減したと推察される。
パフォーマンスの悪化により、ログリーは、買収したmoto社の売上高が当初予想と比較して56.4%のマイナスを見込んだ。SEOが悪化した理由は不明であるが(買収によって権威性が低下した説もあるが、真相はGoogleしか分からない)、そもそも収益の大半をGoogleからの流入 = 外部プラットフォーマーのアルゴリズムに依存する体質が仇となった。また、T氏のTwitterのフォロワー数は、2022年8月時点で約12.4万であり、2021年3月時点と比べて微増と推察され、SNS経由の顧客層を取り切った可能性もある。
パフォーマンスの急激な悪化を受けて、ログリーはmoto社の減損損失を実施。2022年3月期にログリーはmoto社関連で5.69億円の減損損失を計上した。減損テストにおける資金生成単位は「成果件数(転職サイトの登録件数)」であり、アフィリエイト広告の収入が激減したものと推察される。
なお、moto社の業績悪化を受けて、ログリー社の池永COOは引責辞任し、moto社の代表取締役として経営再建にコミットすることを表明した。ログリー社では買収の失敗を受けて、監査役を除く取締役の役員報酬を30%減額(2022年3月〜6月)しており、ログリーの代表取締役社長は役職を続投している。
また、moto社の創業者であるT氏は、減損後も引き続きmoto社の代表取締役を歴任しており、T氏(2022年時点で35歳)とI氏の2名が7億円の投資を回収するために経営再建に奔走していると推察される。moto社の代表取締役2名は、2022年3月から1年間、役員報酬を50%減額した。
【moto社の経営再建について】
2022年8月時点において、転職アンテナでは試行錯誤していた様子が窺える。
公開されている投稿記事に設定されたsitemap.xmlを見る限り、同ブログの記事数は116であり、買収当時の20記事と比べて、大幅に数を増加させた可能性がある。また、2022年8月14日時点で、転職アンテナの全ての記事の更新日が「閲覧日の2:30」になっているなど、危機を打破するために、試行錯誤している様子が窺えた。
ただし、2022年8月時点において、転職アンテナは重要キーワード「転職 おすすめ」と「転職エージェント」において、検索順位1位を確保できている様子はない。
お察しします。。。